冷えた夜に、それを携えて

懲戒免職と再就職を迎えた怒涛の一日にフランの体は疲れていた。


フランが疲労を告げると、リュクレーヌは生活スペースの部屋を指す。


「寝るのは片付けてもらった部屋の一つを使ってくれ」

「分かったよ」


フランの寝室は、生活スペースの一角を使わせてもらう事になった。


「じゃあ、おやすみなさい」

「ん、おやすみー」


フランが寝室に入った後も、リュクレーヌは引き続き仕事場で書き物の続きをする。


それから何時間か経過した後、生活スペースと仕事場を繋ぐドアが開かれた。


半分寝ぼけ眼なフランは作業をしていたリュクレーヌと目が合う。


「まだ、起きていたんだ」

「あぁ、そっちはどうした?トイレか?」

「まぁね……」


夜はひどく冷える。トイレに起きるのも無理がない。


「そこ、右な」

「ありがと」


初めて泊まる家だからと、フランにトイレの場所を教えてリュクレーヌは作業に戻ろうとした。


が、その視線は、あるものを捕らえてしまった


「……ちょっと待った」

「え?何」


場を去ろうとしたフランを制止する。


暗くてはっきりとは見えないが、フランの右手に握られたものを指さした。


「……トイレに銃は要らないと思うけどな」


「……見えてたんだ」


フランはあっさりと、銃を携えた事を認めた。リュクレーヌはゆっくりとフランのもとに近づく。


「どうして銃なんて……」

「……」


黙秘する。こうなったら、名探偵がする事は一つ。


「当ててやろうか?」

「えっ?」


驚くフランに笑顔のリュクレーヌはワントーン優しい声で言った。


「怖かったんだろ?俺のこと」


フランの持ち込んだ銃は、恐怖の為、自分を護るためのもの。

リュクレーヌの出した結論は攻撃ではなく防衛を意味するものだった。


「なんで……」

「名探偵だからな」


自称名探偵は、にっ、と歯を見せる。


「と、言うのは冗談で。銃なんて持ち歩くとしたら誰かの命を狙うか護身用かのどちらかだ」


さて、ここからが深夜の推理ショーの始まりだと言わんばかりに、リュクレーヌの口からは論理が並べられる。


「もし、君が外出して誰かを殺すとしたら俺が寝るのを完全に待つだろ」

「そんなこと」


しない。そう言いたいようにフランは否定した。

だが、リュクレーヌも分かっていると頷いた。


「うん。分ってる。俺を殺すとしたら、わざわざ夜更けに銃なんて凶器を使わなくても、夕飯に毒でも入れればいい」


外出しないとなると、ターゲットは家主であるリュクレーヌという事になるだろう。


しかし、リュクレーヌを暗殺する事を目的にするならば、他にチャンスはたくさんあった。


「だが、俺はこの通り無事だ。俺の命なんざ狙ってないだろ?」


こくり、とフランは頷いた。


「だとすれば、可能性は一つ。君は俺に殺されると思ったんじゃないか?」

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