新聞記者

二人は、占いを後にして食材が売っている生鮮市場へと向かった。


「こんなところがあったのか」


リュクレーヌは初めて訪れる場所に少し驚きを隠せない。


「早く行こう。売り切れちゃう」


フランは、リュクレーヌを急かしながら、市場へと足を踏み入れた。


パンに卵にミルク、肉に魚調味料、リュクレーヌは何が何やら分からぬまま、フランが買い物をしているのを見るしかなかった。


「毎度あり」

「ありがとう」


紙袋に入った品はどっしりと重い。

リュクレーヌはせめて荷物持ちくらいは、と荷物の半分を右腕に抱えた。


「随分とたくさん買ったな」

「まぁね。それにしても、この街は食材が豊富だね」

「そうなのか?気にしたことなかった……」

「お菓子ばっかり食べてればね」


けらけらと笑いながら、荷物を持ちながら大通りを通る。


すると一人の青年が二人に近づいてきた。


「おーい、リュクレーヌーーー!」

「その声は、新聞社のメリーさん!」


青年はリュクレーヌに近づくと財布を渡した。

リュクレーヌは何かに気づく。


「お前、落とし物していたよ。ほらこれ」

「おおー!危なかった!ありがとう」


感謝の気持ちを述べながら、リュクレーヌは空いている方の手を出してメリーと握手を交わした。


「それにしても……お前、その頭どうしたんだよ?」


メリーはリュクレーヌの額に貼られたバツ印を指差した。


「あぁ、ちょっと怪我しちゃってな……」

「怪我ぁ?どんな無茶したんだよ……」

「マスカの事件を扱うっていうのは危険なんだよ。だからほら」

「?」


突然、「こちらをご覧ください」といった手を差し出されてきょとんとするフラン。


リュクレーヌはメリーの方を見て、にっ、と笑った


「アマラの助手を雇った!」


あぁ、自分は紹介されたのか。と、理解したフランはぺこりとお辞儀をした。


「あ……よろしくお願いします」


人見知りだが、こういったところの礼儀だけはきちんとしなければ、と思ったのだ。


メリーは、「へぇ!」と言い、嬉しそうな笑顔を見せる。


「いいなぁ、俺も助手欲しい」

「そんなに忙しいのか?今」

「あぁ、ちょっとデカい取材をするんだ」

「取材?どんな?」


リュクレーヌは興味津々に訊く。

しかし、メリーは「おっと!」と言って制止するように手のひらを向けた。


「これ以上は企業秘密だぜ!とにかく、すげえスクープなんだ!」

「ははっ。そりゃ楽しみだな」

「この記事が出れば、きっと、俺も出世間違いなしだ!」


メリーはこの先にある希望に対して豪快に笑った。


「という訳で、取材に向けて準備しなきゃいけないから戻るわ」


リュクレーヌは「あぁ、またな」と手を振って別れた。

ぶんぶんと振られた手を見たフランは、ん?とリュクレーヌの手を取った。


「……その手どうしたの?」

「なんだこれ!?」


見ると人差し指から小指の第二間接辺りにべっとりと黒い汚れがついていた。

汚れの正体は、粘度、色、においからインクの様だ。


「多分、さっき握手した時に付いたんだな。アイツ、書き物するから……」


メリーの手についていたインクがそのまま付いたらしい。


「ご飯できるまでにしっかり洗っておきなよ」

「分かった、分かった。夕食、楽しみにしているよ」


これからご馳走へと変貌を遂げるだろう食材たちを抱えながら、二人は事務所へと戻る。

 

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