ヘッドハンティング

「ちょっと待て」


しかし、会話に一つ物申したのはオクトだった。


「フラン、今僕たちと言ったな」

「え……?はい」


それが何か?おかしい事を言っているのだろうか。

といった様子でフランはオクトの方を見る。


すると、オクトは、それはもう大きなため息をひとつ、ついた。


そして、フランにとって衝撃の事実を告げる。


「残念ながら、君はもうアマラ軍ではない」

「……は!?」


アマラ軍として名乗ったものの、上司であるオクトによって否定された。


いったいどういう事なのか?リュクレーヌは首を傾げた。


「アマラの禁忌は二つある、一つはマスカになってしまう事。これはそもそもアマラとしての能力を失ってしまうからだ」


アマラがマスカになった場合、能力がリセットされてしまう。

洗礼も訓練も全て水の泡となるため二度とアマラになることは出来ない。


「そしてもう一つ」

「あ……」


もう一つを思い出してしまい、フランは青ざめる。

フランの様子などお構いなしにオクトは思い切り息を吸う。


「マスカ以外を攻撃してしまう事だ!これは法律で決まっている!」


アマラが人間を攻撃すると、普通ならば攻撃された人間は死んでしまう。

故に、アマラ軍がマスカ以外を攻撃する事は法律で禁止されており、その規則を破ったものは懲戒免職となる。


「つまり、フラン。お前はクビだ!!」

「……うわぁーーーー!!!!そうだったーーーー!!!」

「全く!どうしてそんな簡単な事に気づかなかったんだ!」


ふんっ、と腕組をするオクトに対して、フランは頭を抱えた。

絶望。その二文字がぴったりな表情で。


「クビ……どうしよう……寮も追い出されるし……僕は馬鹿だ……」


完全に置いてきぼりになってしまった主、リュクレーヌは「あのー……」と申し訳なさそうに声を掛ける。


するとオクトがリュクレーヌに気づき、振り返った。


「あぁ、すみませんね。でも、ご安心ください。この子のことはちゃんとこちらで処分するので……」


「いや、その事なんですけど……この子、アマラ軍クビなんですよね?」

「えぇ、もちろん」


「だとしたら……彼をうちで雇わせてくれませんか?」


「え?」

「は?」


リュクレーヌの思いもよらない発言に二人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せる。


「正気ですか!?彼は貴方を撃ったのですよ!」

「いやぁ、ちょうどいいなって思ったんですよ。マスカの事件を取り扱うのにアマラの助手が欲しいなーって」

「助手!?僕が!?」

「あぁ。君も新しい職が見つかってちょうどいいだろう。住み込みなら住居も心配ないし……」


リュクレーヌの提案はこうだ。

職と住まいを失ってしまったフランが、探偵の助手を住み込みでするということ。

マスカの事件を取り扱うということはそれなりに危険が伴う。しかし、アマラは軍に所属し、雇う事は困難。


だとすると、フリーのアマラとなったフランの力は心強い。

こんなチャンスはめったにない。と踏んだのだ。


全てを失ってしまったフランとしても、悪い話では無いだろう。

これらの意図を理解したフラン──ではなくオクトは、リュクレーヌの手を両手で強く握った。


「なんとお優しい!!是非ともよろしくお願いいたします!!」

「えっ!」

「はい。こちらこそありがとうございます」

「えぇっ!?」

「手続きの方はこちらでしっかりと処理しておきますので!では!」


と言って、オクトは早速とばかりに探偵事務所を去ってしまった。


「ちょっと!?」


フランを置いて。


 カップに注がれていた三人分の紅茶はとっくに冷めていた。

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