都市伝説とアマラ軍

「違う!」

と、これまでずっと言葉を発していなかったフランが叫ぶ。


自分を撃ってきたとはいえ、この事務所に来てからというもの大人しくしていた彼が、突然声を荒らげた様子にリュクレーヌは少しだけ警戒した。


「兵器じゃない……あれは人の皮を被った悪魔の操り人形だ!」


言っていることは、マスカが兵器であることを否定する内容。

『悪魔の操り人形』その単語にリュクレーヌは一瞬だけ、ぴくりと反応する。


「マスカは、黒魔術でできた仮面を使って人の死体に転生した人間だ!それが暴走した姿が機械みたいなだけで……」

「馬鹿!お前は黙ってろ!」

オクトが必死で制止する。それでもフランは話をやめない。


これだけは、これだけは頼むから言わせてくれと言わんばかりに。


「他人の人生を歩みたい。そう考えた人間の元に、満月の夜、仮面を売りに来る悪魔が居る」

「それは都市伝説の話だろう!」

マスカについては出所が曖昧過ぎて、妙な都市伝説が流れている。


黒魔術で形成された転生システムを宿した仮面。


その仮面を付けた人間が死後、他人の死体に憑依して暴走した姿が我々の知る機械仕掛けの兵器であるマスカ。


そして、仮面の商人である悪魔の存在。


「その悪魔の名前は……」


「ファントム」


二人の声が重なる。


一人は悪魔の名前を口にしようとしたフラン、もう一人は、リュクレーヌだった。


フランは大層驚いた様子だったが、リュクレーヌは冷静を装っていた。


「驚いた。その都市伝説を本気で信じている人が居るとは……」

いや、本心は驚いていた。マスカに関する都市伝説が噂のように流れていることは知っていた。


といっても、ただの都市伝説。信じるか信じないかは貴方次第と言わんばかりにぼんやりしていて曖昧なものである。

もっとも、本気で信じる人物なんてリュクレーヌがこれまで会ってきた人物では誰一人いなかった。


しかし、フランの口からは、その都市伝説が事実であるように語られていった。


「僕はマスカを倒さなきゃいけないんです……そして、その諸悪の根源のファントムも」


なるほど。とリュクレーヌが頷く。


仮面の化け物に悪魔の商人。それを倒して元の世界を取り戻す事がフランの目的だった。


「そのためにアマラになった」

「アマラ……マスカ退治の専門家だよな」

殺戮兵器であるマスカに対抗するべく、科学者たちはマスカの生態を調べ上げた。


その結果、マスカ討伐の為の洗礼を受け、訓練を積んだ、アマラという人間にだけ、特別にマスカを倒すことのできる能力が宿るという事が分かった。

フランもアマラとしての能力を身につけていた。


マスカを──ファントムを倒すために。


「僕たち、アマラ軍なんです」


彼等は敵国の兵器とされているマスカに対抗するための軍、アマラ軍の所属だった訳だ。


「なるほど。マスカの事を言っても通じるわけだ」


リュクレーヌは辻褄があった、とようやく納得した。


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