マスカ専門探偵

事務所のドアを開けてすぐの場所はローテーブルとソファがあるだけのシンプルな応接スペースだった。


余計なものはなく、整頓されている部屋に、リュクレーヌは紅茶を持ちこんだ。


紅茶の香りが湯気と共に天井へと昇る。


「いやぁ、それにしても立派な御宅ですね!」

オクトはきょろきょろと辺りを見渡し、手を叩いた。

その様子にリュクレーヌは「いえいえ」と手を振り、謙遜する。


「それほどでも。ここは家であり、仕事場なんです」

「自営業ですか?」

「えぇ。探偵です。ドアプレートにあったように」

「あぁ、だから依頼とおっしゃっていたのですね」

「はい」


続けて、「まぁ、依頼は無いんですが」と言いかけたがやめておく。

リュクレーヌは自分で淹れた紅茶を息で冷ましてから口に含む。


「では、さぞ、たくさんの事件を解決していたのでしょう?」

「いえいえ、そんな事は……つい先日オープンしたばかりなもので。今日も暇で仕方なくて散歩に行っていたほどですよ」


「えぇ!?まぁこの街が平和だという事ですかね……」

「だと、いいんですけどね」

取り繕うようにオクトは上手い事を言う。


事件がないから自分の出番もない。本来、喜ばしい事だ。

どのような事件を取り扱うのですか?」


「あ、それ訊いちゃいます?」

べっ甲飴色の瞳が輝く。

待っていましたと言わんばかりにリュクレーヌは悪戯っぽく笑う。


「実は、うちはマスカ関連の事件を取り扱う探偵事務所なんですよね」

「マスカ?七年前に突如姿を現した、機械仕掛けの殺戮兵器を?」


この世界に蔓延るマスカという機械は人を襲い、殺すとされ恐れられている。

一般的には、マスカは人の皮を被った殺戮兵器であり、戦争の道具であると知られていた。


しかし、「誰が」マスカを作っているのかといった出処は実際のところ不明である。

この国では、マスカは敵国が作り上げた新型の兵器であると言われていた。


「えぇ。その、マスカです」


表向きは。

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