冷たい殺意と死ねない被害者

「ほう、何故そう思う?」

きっぱりと言い切られた。ブラーチは理由を問う。


「そういう眼をしていたんだよ」

リュクレーヌを捕らえた水色の双眼。

凶悪な事件に縁がある探偵とは言え、ぞくり、と背筋が凍った。


初めてだった。あれは、たしかに殺意だった。

あの少年は、確かに殺意を持ってブレることなく銃口を向け、引き金を引いた。


「それだけか?」


「それだけじゃない……」

理由は他にもある。思い出したくは無いけど。


複雑な心情が顔に出たらしく、ブラーチはこれ以上聞かまいと沈黙した。


「なんで、死ねなかったんだろうな」

普通、眉間に銃を当てられ、撃たれたなら即死だ。


「普通」なら。


「……一回死んでいるだろう」

「それもそうだな」


意味深な物言いに、リュクレーヌは同調するしかなかった。


どこか重苦しい雰囲気に耐え切れず、リュクレーヌはベッドを降りた。


落ち着かない様子でふらふらと歩きまわっていたが、

洗面台の前に立った時、足を止めた。


そして、鏡に映る己の姿を二度見する。

「って、なんだこりゃ!?」

額の少し下、リュクレーヌが銃弾を受けた眉間の辺りに

立派にバツ印を描くようにガーゼが貼られていた。


「それか。眉間に穴が開いていてな」

「だとしてもこれは無いだろ!ダサすぎだろ!」


せっかくのイケメンが台無しだと言わないばかりにリュクレーヌは猛抗議。

一方、ブラーチはやっと気づいたかと笑いを堪えている。


──絶対にわざとだ。わざとやっている。


「……ん?痛っ!?」

リュクレーヌがにわかに頭を押さえ、叫んだ。

バツ印のガーゼの奥にある傷口が割れる様に痛み出す。


「あぁすまない、麻酔が切れる時間の様だ」

「痛い、痛い、痛いっ!!」

悶え、苦しみ、のたうち回るリュクレーヌをよそにブラーチは淡々と言葉を吐く。


「まぁ、痛み止めを飲んで寝ていれば大丈夫だろう。ほら、帰った、帰った。」

「鬼かよ!?」


叫びも虚しく、リュクレーヌは痛む頭のまま、半ば強制的に病院を追い出された。

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