探偵は病院にて蘇生する

目を覚ますと、リュクレーヌの視界には白い無機質な天井が広がった。

ツンとした消毒の香りがほのかにする。


「……っ?」

辺りを見渡すと目に入るのは、大きめの薬棚に、処置をした後の血塗れのガーゼ、そして白衣の人物。


何となく察した。どうやら病院に運ばれたらしい。


リュクレーヌが身体を起こすと白いベッドが軋む音がした。

ギシッという音に、白衣の人物は振り向き、リュクレーヌの居るベッドの方に近づいた。


「なんだ、生きていたのか」


「ブラーチ……」


憎まれ口を叩く白衣の人物はブラーチといった。

先ほどまでカルテを書いていた。つまり、医者だ。


いや、医者にしては随分と患者に対する口が悪い。


「あぁ、助けてくれたのか。ありがとう」

しかし、リュクレーヌは助けてくれたことに感謝の言葉を口にする。

名前を知っているという事は顔見知りであるのだろう。

故に、憎まれ口など慣れている様子だ。


「礼には及ばない」

ブラーチは軽くあしらい「それにしても」と話題を変えた。


リュクレーヌを撃った、あの少年の話題に。


「いきなり撃たれるとは……あの子に心当たりは?」

「全くない」

即答だった。面識のない少年に突如撃たれた。


通り魔か?はたまた、探偵という職業柄自ら事件を吸い寄せてしまったのだろうか?


「いやぁ、名探偵は辛いな」

「よく思い出せ。お前は変なところで抜けているからな」

能天気なリュクレーヌにブラーチは深いため息をついた。


リュクレーヌを突然撃った少年。

彼が通り魔だとすれば、標的を仕留めた後、あのような慌て方をするだろうか?


尤も、リュクレーヌは当時、意識を失っていたのでその事は知らないが。


「ないって。俺、物覚えだけはいいし」

だが、リュクレーヌは自信満々に答える。


これも職業病。リュクレーヌは記憶力には相当の自信があった。

一度会った人物の顔は忘れない。多分。

あの少年とは初対面であった。きっと。

しかし、一つだけ、確実に言えることがある。


「けど、あの少年、俺の事殺す気だった」

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