ルーナ探偵事務所

前日まで降っていた雪は止み、陽だまりの中子供たちの笑い声が響く。


穏やかなレンガ通りにて、背の高い建物に挟まれた小さな民家があった。

いや、一見民家だが、よく見るとドアプレートに何やら記されている。


『ルーナ探偵事務所』


隠れ家的カフェがあるくらいだ、この場合は隠れ家的探偵事務所とでも言えばいいのだろうか。


それ程に、ルーナ探偵事務所はひっそりと佇んでいた。


 

さて、その隠れ家的探偵事務所の主、リュクレーヌ・モントディルーナは、なにやら険しい顔で重厚なデスクに頬杖をつく。


暗い濃紺の前髪から覗く、べっ甲飴色の瞳が、じっと一点を見つめる。


「はぁ……」

ひとつ、ため息をつく。一体どんな依頼を抱えているのだろうか。


小さくても探偵事務所だ。デスクの後ろにある本棚にはぎっしりと分厚く難しそうな本が詰まっている。


きっと、難事件を抱えているに違いない。


『今晩、お宝を頂きます』といった予告状を送る怪盗との攻防か?はたまた、連続殺人事件の捜査依頼でも来ているのか?

いや、案外、日常に潜む都市伝説を解明するといった、オカルトめいたものかもしれない。


「暇だぁ……」


暇。そうか、暇という事件──ん、暇?


探偵リュクレーヌのため息の原因は暇。

つまり、依頼が無い。予想外の悩みだった。


それもそのはず。

つい先日オープンされたばかりの探偵事務所は影が薄く、まだ誰も寄り付かないみたいだ。


リュクレーヌは皮張りの立派な椅子の背もたれに思い切り重心をのせ、伸びをする。


退屈からか、木製のデスクの上に乱雑に置かれていたクッキー缶を開け、中身を確認。

缶の中身にはクッキー本体は無く、カスしかなかった。


あ、切れてた。

とリュクレーヌは狐につままれたような表情をする。


仕方がないのでクッキーを買うために街に出る準備をする事にした。


無動作にハネた、一見寝ぐせのような髪を隠す様にシルクハットを被る。

更に、紺色のスリーピーススーツの上に、ロイヤルブルーのインバネスコートを羽織った。

コートを羽織ると如何にも、名探偵らしさが上がる。


まぁ、依頼は無いが。

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