1. ウルフムーン
約束の日
名探偵は、殺された。
平和なはずのロンドンの街に銃声が響く。刹那、彼は地面に倒れこんだ。
事件を引き寄せてしまうのは職業病だから仕方ない。諦めはつく。
──いや、だからって自分が被害者になるなんて思わないだろ?
流れる鮮血と共に薄れゆく意識の中、酷く冷たい瞳が見つめていた。
◆
一九〇〇年英国。アマラ軍ロンドン本部男子寮。
少年は悴む指先を吐息で温め、擦り合わせた。
軍人の朝は早い。
酷く冷えた一月の早朝、歯を磨くために少年は眠気で薄い意識のまま廊下に出た。
廊下ではもうすでに身支度を済ませた者たちが談笑をしている。
あぁ、早起きが出来る人たちはいいなぁ。と思いながら少年は歯ブラシを濡らした。
「なぁ、ファントムって知ってる?」
──ファントム……だと?
ぼんやりとしていた頭に響いた問いに少年の意識は覚醒した。
「ファントム?なんだそれ」
談笑をしていたもう一人が聞き返す。少年は会話にこそ割り込まずに耳を傾ける。
「あちゃー、お前知らないの?都市伝説」
「何、何?信じるか信じないかは貴方次第ってやつ?」
「そう、俺達が倒しているマスカはファントムっていう悪魔が作ってるの」
アマラ軍。この組織は、マスカと呼ばれる人間の皮を被った新型兵器の破壊を専門とする軍隊だ。
都市伝説の会話をしている彼らも、そして少年も勿論アマラ軍の軍人である。
「どうやって?」
「ファントムっていう悪魔と契約して仮面を買うんだよ。」
「仮面?……って、あの顔を隠すやつか?」
「その仮面だ。それを装着したら死後の魂を、好きな死体に移すことが出来るんだってさ」
ファントムとの契約で死後の魂を自らの意思で憑依させることが出来る。
ただし、それは死体に限った話だ。
生きている者に魂を転生させることは出来ない。
「つまり、転生ってやつ?」
「そう。でもファントムと契約できるのは満月の日だけなんだよ。何故か」
「満月……あれ、今日満月じゃねぇか?」
「そうなんだよ!しかもさ、この街に居るって噂らしいぞ」
──ファントムが、この街に?
談笑する同僚たちを脇目に、少年は一目散に部屋に戻る。
急いで着替えなくては、と制服ではなく、私服に着替えた。
──きっと今日が、約束を果たす日だ
大切そうに使われてきたスチームパンク銃を手に取り、強い眼差しで眺める。
そして、決意するように腰のガンホルダーにしまった。
──遂に、ファントムを倒す時が来たんだ!
少年は、街へと駆け出した。
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