第4話 欲望とプライド

なんなんだ、あのアマンダとかいう女は! 気持ち悪い。


 エミリアの友達で大事な話があるというから、わざわざ会ってみれば、あの噂を真に受けたのか、早く別れたほうがいいとか、自分が慰めてあげるだとか、自分の顔を鏡でちゃんと見てからにしろ、って言ってやりたい。


 しかも、あの女、絶対自分が美人だと思ってるだろう、あんな女と歩いていたら昼間から娼婦と歩いてると思われてこっちが恥をかくわ。


 胸が大きく空いたドレスでベタベタと触りまくって、カストール家はどんな教育をしてるんだ、まったく。


 エミリアが来たと聞いたから、早く行きたかったのに、なかなか帰らないし、もう二度と来るな!


 やっと、あの気持ち悪い女が帰って、エミリア達のところに来たのに、可哀そうに、ずっと青ざめた顔をしてろくに話にならなかったじゃないか!


 付き添ってくれていたシェリルという子は、本当にエミリアを心配してくれて、一緒にベルリオース家まで戻ってくれたみたいだから、大丈夫だと思うが、近いうちに時間をつくってエミリアに会いに行かないとな。


 エミリアに会って、元気づけてあげたいのに、翌日から、忙しくなった。


 あの女が俺と婚約したと言ってるらしく、そのせいで訪れる客が途切れないのだ。


 まったく、忌々しいが、お客がくればそれなりの対応をして、デタラメな噂も、きちんと否定しないといけないし、貴族社会の中では人付き合いと、無責任な噂には十分な注意を払わないと、どこで足元をすくわれるかわからないから、面倒臭いと思いつつ、にこやかに対応している。



 屋敷に戻ってきたエミリアは、食事も取らずに部屋に引き籠っていた。


 両親も心配したが、シェリルから、アンドレ様はエミリアは信じているときき、それならばと少し安堵して、今は好きにさせてあげましょうとエミリアをそっとしておいた。


 エミリアは酷いショックを受け落ち込んでいたが、侍女達が、アンドレ様とアマンダが婚約をしたらしいとの噂があるが、屋敷の者は誰も信じていない、エミリアの味方だから安心して欲しいと聞かされると、落ち込むよりも、ふつふつと、静かな怒りが沸き上がり、落ち着きを取り戻すと、少しづつ自分が置かれている立場を理解した。


 私は、今までお父様、お母様、アンドレ様にもずっと甘えていたのだわ、シェリルにも、マリエールにも。


 いつまでも、守ってもらうのが当たり前でいたのね、だから、知らないうちにあんな噂を流されて、そのせいで皆にも心配をかけて、あのまま結婚していたら、私は守ってもらうだけのお人形さんだったのかもしれない。


 だから、自分の知らないところで、いい様に言われ、どうせ、何も出来やしない、泣いてるだけだろうと甘く見られてるのだわ、今までは周りに恵まれすぎていたのね。


 私は自分の身は、自分で守るわ、アンドレ様の隣に立つのにふさわしいと、皆にも認めてもらうためにも、もう、私は負けたりしない、そんな卑怯な手を使う人達に怯えたりしないわ。


 エミリアは生来、優しく大人しい気質ではあるが、誰よりも誇り高い一面を持っていたのだ。


 そして、アマンダが二人に、アンドレ様との結婚式にはエミリアも呼んだほうがいいか迷っている、友達には違いないけど、不倫しているような子を神聖な結婚式に呼ぶのはどうかと思っているの。


 などと、さも、友達思いの顔をしていることに呆れかえり、完全のエミリアの味方になることを決めていた。


 ほとんど出掛けることも無かったエミリアだが、この日以来、積極的にお茶会や舞踏会へと顔を出すことになり、シェリルとマリエールも時間が合う限り、一緒に出かけてくれる。


 時折、エミリアの顔を見ながら、ひそひそと噂話をする者もいたが、臆することなくその輪の中に入っていき、


 「今のお話は、とても興味深いですわ、是非、もっと詳しく教えていただけるかしら? 」


 と、にっこり笑って会話に加わると、たいていの者は黙って下をむいてしまうか、笑ってごまかすものばかりで、誰もがあいまいな情報しか持っていないのがわかり、何となく、あれはデマだったのかもしれないと言われ始め、それよりも、エミリアの凛とした美しさのほうが話題に上るようになっていった。


 あの、世間知らずのおバカさんが、美しいなんて、皆なんて見る目がないのかしら?

細いと言えば、聞こえがいいのかもしれないけど、あんなガリガリじゃ、女としての魅力なんてないじゃない!

顔だって、せいぜい並みでしょう? 私とは比べ物にならないくせに、なんであんな女がチヤホヤされるのかしら。


 アンドレ様だって、一度私を抱けば、私の良さがわかるのに、きっとあの女が近づけないように悪口を言ってるに違いないわ、本当に性格の悪い女ってイヤね。


 あーあ、面白く無いわ、又、お買い物でもしようかしら、あんな女より、私のほうがいい女だって誰もが認めるぐらいの高価な宝石でも買ってもらわないとやってられないわ。


 そうだわ、早速、呼び出しましょう、私に会えるのだから、喜んで来るでしょうね、でも、毎回、ベッドまでは付き合わないわよ、そんなに安い女じゃないからね。


 ……はああ、また、おねだりなのか? キリがないな、あの女は、しかも、なんで自分のほうが偉そうに呼び出すんだ?

もう、なんか疲れてきたから相手にするの止めよう、若くてもっと、可愛げのある女の子なんて他にいくらでもいるからな。

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