第5話 反撃

 やっぱり、モーガン伯爵と不倫をしていたのは貴方だったのね、アマンダ! 許せないわ。


 執事のセバスチャンに今回の不倫騒動の件で、相談したら、貴族であれば、独りで出掛けることはほとんどないはずだから、モーガン伯爵家の御者や、召使い達に話をきければ何かわかるかもしれない。


 と言われ、人を雇って探らせていたら、多少のお金で皆、面白い様にいろいろ話をしてくれた。


 モーガン伯爵って、召使い達から好かれていないのね、知りたい事以外も、ぼろぼろと話しをしてくれたみたいね。

 

 アマンダ以外にも、何人も浮気相手がいるけど、奥様に頭が上がらないとか、もね。


 アンドレ様にも御力を借りないといけないから、ご迷惑をおかけしてしまうけど、こればっかりは仕方ないわね、相手は伯爵家のご当主様、私が呼び出しても応じては下さらないでしょうから。


 アンドレ様に事情をお話したら、驚いていらっしゃったけど、それは面白そうだと、とても乗り気になって下さったので一安心。


 これで、準備は整いましたわ。



 アンドレ様から、やっとお呼び出しがかかったわ、しかも指輪を選びたいなんて! 婚約が決まったのも同然よね。


 オルシアン公爵家に到着して、去ったのウキウキと案内された部屋に入ると、アンドレ様がベルファムのカイゼルと一緒に待っていて下さったの。


 やっぱり、私にふさわしいのはアンドレ様だったのね、今まで妥協しなくて本当に良かったわ。


 「やあ、アマンダ、急に呼び出して申し訳なかったね 」


 「いいえ、お急ぎだとお聞きしましたし、私もお逢いしたかったのでかまいませんわ 」


  ……かまいませんか、この女は私の立場をわかってるのだろうか? まあ、どうでもいいが、


  カイゼルが前へ進み出て、アマンダに挨拶をした。


 「エミリア様、今日は指輪をお探しと伺っておりますが、それでよろしかったでしょうか? 」


 ……エミリア? なんで、


 「先日、モーガン伯爵様とご一緒にご来店されました時にエミリア様と伺っておりましたが、何か間違いがございましたでしょうか? 」


 さっと、アマンダの顔が曇り、目を見開いてカイゼルを見るが、上手い言葉が見当たらない。


 「先日、ベルファムに伺った時に、エミリアと名乗る女性が指輪を欲しがっていたと聞いたので、それなら私が贈りたいと思ったのだが、どうも、話がかみ合わなかったので、確かめるために君にきてもらったんだ、どうして、エミリアなんて名乗ったのかな? 」


 「あっ、あの…、それは、」


 まずいわ、なんで、そんなこと、


 「エ、エミリアに似合いそうだと、話をしてただけで、私がエミリアなんて、言ってない…」


 「そうなのか、来店も一人じゃなくて誰か男の人と一緒に来店したようだけど、」


 チラリ、とカイゼルのほうを見るとこくりと、頷い顔色はている。


 「お、お父様と一緒だったの、年配の方と一緒に来店したのよね 」


 「はああ、せめて君が素直に謝ってくれれば、エミリアは許すと言ってたんだけどな、自分で自分の首を絞めたんだ、きっちり責任取ってもらうから、エミリア、モーガン伯爵、こっちに入ってきてくれ 」


 二人が、静かに部屋に入ってきた、モーガン伯爵は青ざめて項垂れている。


 「モーガン伯爵、悪いがもう一度、説明してくれるかな。」


 「は、はい、私がその女性とベルファムに行った時に、妻と鉢合わせしてしまって、その女性がエミリアと名乗ったのです 」


 「なんで、そんな嘘をついたのかな? 」


 モーガン伯爵は、ひっきりなしに吹き出す汗をぬぐっているが、汗が止まる様子はなさそうだ。

その横から、アマンダが鬼のような形相で睨みつけているが、目に入ってはいない。気にする余裕など無いのだ。


 「そ、それは、この女性と私が、その、関係を妻に疑われてしまいまして、ですね、その、」


 「疑い? だけですか、何もない? この場できちんとおっしゃっていただければ、それ以上の追及は、しませんが、そうでない時は、……わかりますよね 」


 ますます、モーガン伯爵の顔色は青く、汗は止まらない、


 「この女性と、ふ、不倫の関係にありました! 」

 

 一気に言い切って、がっくりと肩を落とす。

 

 「アマンダ、私が不倫してると言いふらしたのは貴方なのでしょう、謝罪して下さい 」


 青ざめながらも、自分の非を認められず、わなわなと震えている。


 「私は悪くない! 私のほうが美人なのに、あんたが優遇されてるなんておかしいもの、あんたより早く出合ってたら、アンドレ様だって私を選んでるはずだもの! 」


 叫ぶように、部屋を出て行くアマンダ、かつて華やかで自信に満ちていた、友達だった女性の姿は既になかった。


 「あれで、良かったの? もっと文句を言っても良かったんだよ、君にはその権利があるんだからね 」

 

寂しそうに笑いながら、フルフルと首を横に振る。


 「十分です、これ以上は望んでませんから 」


 そんな、エミリアの肩を抱き、優しく頭を撫でるアンドレ、これから先は、今までの優しく穏やかなエミリアでいられるよう、密かに自分に誓うのだった。




    ~後日談~


 まあ、エミリアも成長したみたいだし、アンドレと力を合わせてやり返したようだけど、私の自慢の息子と可愛い未来の嫁を泣かせたのだもの、もう少しお返しをしなくてはね、兄様(陛下)とお義姉様(王妃様)には、私から告げ口をいたしましょう。



 モーガン伯爵は、今までの領地の怠慢経営を指摘され、僻地に飛ばされ、アマンダのカストール家は王妃様とオルシアン公爵夫人に疎まれ、社交界での立場を無くし、今回の件を重く見たカストール男爵によって、アマンダは修道女となったが、そこでも態度が改まず、毎日、掃除を命じられ不満を撒き散らしているようだ。

 



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