第7話 幸運への扉は檻の中
「水に浸すと抜け道が出てくるとはな。あの野郎、ふざけた細工をしやがって」
「問題は、この道端のどこに抜け道への入り口があるかってことだ」
俺は抜け道との分岐点に立つと、周囲を見回しながら言った。周りにあるのは資材置き場や倉庫ばかりで、迂回路らしきものはない。
「隠しルートってことは、通りがかった人間が近づくのをためらうような場所にあるってことだ」
眩三が濃い眉を動かしながら言った。なるほど、言われてみればそうかもしれない。
「この辺りで近づきたくない場所と言ったら……おっ、あそこのぼろ小屋なんか怪しいな」
俺が目で示したのは、私有地らしき場所に建てられた掘っ立て小屋だった。人が住むには荒れ過ぎていて、錆びた閂がかかった扉は、触れただけで外れてしまいそうだった。
「そうだな。見ろよ、あの注意書きを」
俺はギランに促され、扉に貼られた板の文字に目を向けた。
『猛毒危険』
「……ちょっと覗かせてもらおうぜ。一体何がいるのか、好奇心をそそられるじゃないか」
俺たちは互いにうなずきあうと、ぼろ小屋の前に移動した。周囲に人目はなく、俺たちは注意書きの内容を無視して閂を外しにかかった。
「うっ……生臭いな。なにかいやがる」
中を覗きこんだ俺は、薄暗い小屋の中を探った。室内には朽ちた工具などが乱雑に置かれた棚と作業台、それに得体の知れない金属の檻があった。
「見ろ、檻の中を。猛毒ってのははったりじゃなかったようだ」
眩三がどこか愉快そうな口調で言った。檻は扉がわずかに開いていて、中では黒く長い影が複数のたうっており、不穏な気配を漂わせていた。
「蛇か。なんだってこんなところで飼ってやがるんだ?」
「あの『ふた』が怪しいな。毒蛇が守ってるなんて、いかにもじゃねえか?」
ギランの言葉に俺ははっとした。良く見ると檻の中にマンホールのような円盤状の蓋があった。なるほど、一度地下に降りるという手があったか。
「ちょっと待て、何か音が聞こえないか?」
ふいに眩三が押し殺した声で言った。機械が起動するような唸りが床から伝わってきて、俺は思わず「またセキュリティの類じゃないだろうな」と身を固くした。
「見ろ、『ふた』が動いてるぜ」
ギランが俺と同様、身構えながら叫んだ。観ると確かに言葉通り、円形の蓋がゆっくりと回り始めていた。
「いや……あれは『ふた』じゃない。『ふた』に見えるのはカムフラージュだ」
俺たちが固唾を飲んで見ていると、『ふた』の下からなにかが姿を現した。
俺たちが『ふた』だと思っていたものはどうやら円柱の一部らしく、床から伸びた柱は檻の天井に達すると動きを止めた。
「まさかあれが……」
俺が言い終える前に、柱の一部が横に動いて縦長の穴が姿を現した。
「まずい、いったん外に出よう」
俺たちは弾かれたように駆けだすと、小屋の外に出た。
「あそこに焼却炉がある。あの陰に隠れよう」
ギランが身の隠し場所を目ざとく見つけ、俺たちは焼却炉の後ろに移動した。俺がさほど大きいとは言えない焼却炉の後ろから顔を覗かせると、小屋の扉が開いて小柄な年配男性が姿を現した。
「あの隠し扉から出てきたんだな。蛇をどうやって手なづけたのか知りたいところだぜ」
俺たちが狭い場所で身体を縮こまらせていると、男性はあたりの様子をうかがうような素振りを見せた。
「なるほど、やはりあの柱が隠しルートへの入り口と考えて間違いなさそうだ」
「あいつが戻った後、何とか蛇を騙して中に入るしかないな」
俺たちは男性が小屋に戻るのを待って焼却炉の陰から這い出した。おそらくあの柱はまた、床下に消えてしまったに違いない。
「どうやったら入り口が出てくるのか、どうすれば蛇がおとなしくなるのか……こりゃあ難題だ」
「まあ、色々やってみようぜ。とりあえず地図の場所に入り口があったことは確かなんだ」
俺たちは呑気な意見を交わしながら、物騒な入り口のある小屋の方へと戻っていった。
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