第6話 秘密の近道は獣に聞け


 おのぼりさんの俺たちは、もらった地図を頼りに土地勘もないままダウンタウンをほっつき歩いた。


「なんだこりゃ、行き止まりだぜ。ひどい道案内もあったもんだ」


 いきなり行く手を塞いだ巨大なフェンスに、俺たちは閉口した。あらためてラルゴが寄越したぼろきれの『地図』を見ると、確かに現在地と思しき場所で道が途切れていた。


 どうにか地図と同じ地形を見つけ、目的地を目指してやってきたつもりだったがまさか行き止まりとは。


「くそっ、もう少しよく地図を見とくんだったぜ」


 フェンスは左右に長く伸びており、迂回するにしてもかなりの距離がありそうだった。


「……それよりクライ。さっきから俺たちの後をついてくる奴らがいるようだぜ」


 ギランが俺の隣に並ぶと、顔を前に向けたまま言った。


「ああ、知ってる。どこかで撒こうと思ってたが、どうやらここが終点のようだ」


「こりゃあ罠だぜクライ。あの髭野郎、一杯食わせやがったな」


「そうとは限らないさ。ちゃんと足取りを掴まれるなって忠告してくれたじゃないか」


「どうする。捕えて口を割らせるか」


 眩三も隣に並び、俺たちは並んで前を向いたまま言葉を交わした。


「そうだな……五分だけ遊んでやることにしようぜ」


「何か策があるのか」


「あいつに手伝ってもらう。いち、にのさんでゲーム開始だ」


 俺はそう言うと、フェンスの上に取りつけられた監視カメラを目で示した。


「じゃあな」

「後ほど」

「いち、にの……さんっ!」


 合図と共にギランと眩三は左右に分かれ、駆けだした。俺は正面のフェンスに手をかけると、わざと大きな身振りでよじ登り始めた。監視カメラの気配を感じた俺は咄嗟に手を放し、落下の勢いを利用して地面に這いつくばった。


「不審者接近中」


 警報が鳴り響き、監視カメラが侵入者を探るためのビームを放った。顔を上げると、背後にいた作業着の二人組がビームを浴びてうろたえる様子が見えた。


 二人組が慌てて身を翻すと、ビームも挙動に合わせて二人の背中を追った。俺はビームが向きを変える前に地面を蹴ると、近くに放置されていた重機の陰に身を隠した。


「警報、解除」


 俺が重機の陰で息を潜めていると、監視カメラの動きが止まってあたりが静かになった。


「さすがに、すぐには引き返してこないな」


 俺が二人組が戻るのを待ちつつ、ポケットに手を突っ込んだその時だった。足元に動くものの姿が見え、俺はバランスを崩して水たまりに尻もちをついた。


「痛え……なんだ、野良猫か。こんな島にも野生の獣がいるとみえる」


 俺が濡れたズボンの尻をつまみながら立つと、人の声らしきものが耳に飛びこんできた。重機の陰から顔を出すと、フェンスの前であたりをうかがっている二人組の姿が見えた。


「ようし、えらいぞ。ちゃんと戻ってきたな」


 俺はポケットから羽虫型の発信機を取りだすと、二人に向けて放った。二人組は苛立ったように舌打ちをすると、背中に発信機を貼りつけたまま、元来た方へ引き返していった。


「――追っ手は撒いたぜ。どこかで落ち合おう」


 俺は端末でギランたちに呼びかけると、尻のポケットから『地図』を取りだした。


「――なんだこれは?」


 泥水で濡れたぼろきれを広げた俺は、『地図』の染みが変化していることに目を瞠った。


「そういうわけか。……おい、目的地へのルートがわかったぜ。いったん戻ってこい」


「ルートがわかった?どういうことだ」


「道が途切れる手前から、隠しルートが伸びてる。入り口さえわかれば目的地に着けるぜ」


「どうしてそれに気づいた?」


「野良猫に教わったのさ。急がば回れってね」

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