第5話 毒海に堕ちた機械ども


「俺の名はクライ。見ての通りの流れものだ。こっちの目付きの鋭い男がギラン。武術、体術なんでもござれの男だ。そしてその隣の、ブツゾーみたいに無口な男が眩三だ。東の方の島で生まれ、テラだかジンジャだかで育ったらしい。頭の良さはこの中で一番だ」


 俺たちがざっと自己紹介を済ませると、髭にヘアバンドの男は「いいチームじゃないか」と言った。


「俺はラルゴ。本名かどうかは想像にまかせるよ。仕事は世間じゃ忌み嫌われてる『死体掘り』だ。


「どうしてこの島に?」


「あんたたちと同様、一山あてに来たのさ。大金を手にしたらやくざ稼業から足を洗って生体パーツの店でも開こうと思ってね」


「この島のカジノが人工知能に制御されていると知っていて、どう稼ぐ?イカサマ以外には考えられないぜ」


「こればかりは企業秘密だ。だが、ひとつだけいいことを教えてやろう。ここのカジノで稼ぐなら、入店許可証を活用しろ。ただし『本物』は駄目だ。メインシステム発行の純正物は身に着けた瞬間、あらゆる個人情報を吸い取っちまう」


「つまりあらかじめ偽造IDを用意しておけと?」


「そうだ。チェックされる直前にマジシャン顔負けの速さですり替える……それが敵に思考を読まれない唯一の防御策だ」


「純正のIDを身につけたらどうなる?」


「メインシステムにプログラムを組まれて勝負を始める時にはもう、「ほどよい負け」状態で追い出されることが確定する」


「つまり胴元と駆け引きする前に、店を支配するシステムとの前哨戦があるってわけだな」


「それだけじゃない。プレイ中もマシンに埋めこまれた思考センサーで常に考えを読まれる。脳みその中をポーカーフェイスにし続けないと勝負に勝つことはできない」


「ひでえハンデだな。それで負けた連中が薬に手を出してますます破滅するってわけか」


「やっとわかってきたようだな。ここではメインシステムに対抗するため、思考ブロックの効能を謳う薬がしこたま出回ってる。中には人格ごと変えてしまう薬まであるって話だ」


「胴元が人工知能なら、自分も機械になり切ればいいってことか。怖い話だぜ」


「本物のマフィアが営んでいる商売なら、まだましな方だ。噂じゃメインシステム自身がマフィアを装って思考をコントロールする薬を闇ルートで流してるって話だ。いかにもマフィア然としたブローカーが実はメインシステムと直結したアンドロイドだった……なんて怪談もあるくらいだ」


「ひでえありさまだな。誰一人信じちゃいけないってわけか」


「俺たち流れ者の間でまことしやかに言い伝えられている教訓はこうだ。『人間臭い奴は信用するな』」


「なんだかゾッとするね。だが虎穴に入らずんばなんとやらって教訓もある。ここの人工知能が悪行三昧の毒知能なら、毒を持って制するってのもありじゃないか?」


「ふふん、どうやら行く気のようだな。これも何かの縁だ、いい店を教えてやろう。入店許可証を偽造している奴の店だ。ただしシステム当局に足取りを掴まれたら、その日のうちに毒の海に沈められるぜ」


「わかった、気をつけるよ」


 俺が礼を述べると、ラルゴは染みが地図のように見えるぼろきれを放って寄越した。

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