第8話 はぐれ者のララバイ
「さしあたっては、あの『入り口』をどうやって引っ張りだすかだな」
おんぼろ小屋に先陣を切って入った俺は、物騒なペットの檻を前にひとしきり唸った。
「この建物内で何か、異常事態が発生すればいいんじゃないか?見た目はおんぼろだが、恐らく見えないところにセンサーだのカメラだのがしこたまあるはずだぜ」
「この可愛らしい愛玩動物たちが連れ去られそうになる、というのはどうだ?」
眩三はそう言うと檻の前に屈みこみ、扉の閂をいじり始めた。やがて軋み音と共に檻の扉が開き、毒々しい模様の蛇が数匹、鎌首をもたげながら這い出してきた。
「いい子たち、こっちへおいで」
眩三は雑嚢から先の広がった縦笛を出すと、蛇に聞かせるかのように吹き始めた。檻の中にいた蛇たちが縦笛の前に集まった瞬間、笛の先から白いガス状の気体が噴き出した。
「入り口の守護者たちよ、しばらく眠るといい」
眩三が厳かに告げると蛇たちは置物のように硬直し、床の上に転がり始めた。眩三の笛から出る超低温ガスにやられたのだ。
「さて、それじゃあ俺はこの可愛い子ちゃんたちを攫っていくとするか」
ギランはそう言って蛇たちを拾いあげると、小屋の外に姿を消した。
「よし、散るぞ」
俺と眩三は左右に別れると、棚の陰に身を潜めた。やがてモーターの動く音が聞こえたかと思うと、檻の中にある『ふた』がせり上がり始めた。
「――どうした、何があった?」
柱の中から出てきたのは、先ほどの小男だった。
「気の毒だが可愛らしい門番は、長期休暇中だ」
いきなり現れた俺たちを見て、小男は全身に警戒をみなぎらせた。
「誰だあんたたちは」
「偽造IDの店を探している流れ者さ。……眩三、やってくれ」
俺が声をかけると、眩三が数珠を取りだして男の方に突きだした。
「南無三!」
掛け声と共に数珠が爆発的な光を放ち、小男は「うっ」と呻いてその場に崩れた。
「――ふう、ようやくお嬢ちゃんたちのベッドが見つかったぜ。……そいつは誰だ?」
現れたギランに俺は「そのお嬢さんたちの世話係さ。道案内をして貰おうぜ」と言った。
俺たちは小男を縛りあげると、小屋の中にあった椅子に括り付けた。できれば手荒なことはしたくないが、この際、やむを得ない。
十分ほど経って気づいた小男が最初に口にしたのは「お前たち、命拾いしたな」だった。
「命拾い?」
「ああ、わしが来るのを待たずに地下に飛びこんでいたら、トラップにやられてお陀仏になるところじゃった」
「ふう、怖いねえ。……それじゃ悪いが、先に行ってそのトラップとやらを外してくれ」
俺が猫なで声で言うと、小男は「まあいいだろう。どうやら客らしいからな」と言った。
「客?……するとあんたは」
「偽造IDが欲しいんじゃろう?後払いで用立ててやろう」と不敵な笑みを浮かべた。
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