第30話 封印と復活の物語
反省部屋から脱獄し、
フォルタのエゴイスタを解き、
教会派が使うホールに集まるあたしたち……。
タルト、サヘラ、シータ、フォルタ……、あたし。
というわけで、こうして時系列が追いついた。
「フォルタからの連絡でこうしてきてみれば……珍しい顔がいるわね」
「連絡……? ――ああ、あらかじめ、あたしらに捕まる前に一報を入れてたのか」
ん? ……連絡をしておきながら、あんな事を言ってたのか……。
やっぱり、性格悪いよなあ。
まったく、誰の影響なんだか。
間違いなく、フォルタから見て、姉の誰かなんだろうけどさ。
「へえ……だとしても、タイミングがいいな。
もしかしてこっそりと隠れて出るタイミングを窺ってたのか?
空気を読んで、気を遣って? 可愛いところ、あるんじゃん」
可愛いところならたくさん知ってる。
ロワは実際に昔、こんなんじゃなかった。
「そう不愛想な顔をするなって。だから妹たちに恐がられるのよ」
ぴくっ、と、ロワの眉が動いた。
無表情だけど無感情じゃない。
無感情な者など、滅多にいない。
感情なんていらないと思っていても、絶対について回る。
あたしらに拒否権はないのだ。
「……乱暴な口調。家出して、ますます、貴族らしくなくなったわね」
「貴族らしいってなんだ? あの堅っ苦しく、人を見下したような生き方の事か?
下界民を馬鹿にして、人間を忌避する、
まるで自分たちが神にでもなったような高飛車の事か?
金が多い、なんでも手に入る、
苦しい生活をしている者たちの犠牲の上で成り立っているくせに、
他人の努力の蜜を吸っているだけのくせに、偉そうにしている生き方の事なのか!?」
「それが――家出をして得た答え?」
「いや。正直、貴族の在り方なんて今はどうでもいいよ。
一生、どうでもいいけど。あたしには合わないから、貴族として生きる気もないしね」
「ええ!? お姉ちゃんはもう帰ってこないの!?」
「その場のノリだから! 大丈夫、いつかは戻ってくるよ!」
安堵の息を吐いたタルトが、首根っこを掴まれ、サヘラに引き戻された……。
どっちが姉だか分かったものじゃないね。
でも、おかげでちょっと、クールダウン。
熱くなり過ぎた。
言わなくていい事まで言ってしまった――脇道に逸れ過ぎ。
本音だけども、いま言う事じゃない。
というか、ロワに言ったって仕方ない。
こういうのは母さんに言わないと。母さんでさえも、すぐに変える事は難しい問題だ。
「貴族は、そういうものだ。今まで、そう歴史が続いているんだから」
「先人の言いなりだな、お前は。
変えようと努力しろよ……って、だから、今はそれはどうでもいいんだって」
ロワからすれば、どうでもいい話ではないのだろうけど。
悪いけど、あたしはその話を広げるつもりはない。
こっちだって、早く本題を話したいのだ。
なにが起こるか分からないし、できる内にやるべき事をしておかないと。
いつ、タルトが面倒事を巻き起こすか、分かったものじゃない。
「どうでもいいのなら……本題はなに?」
「こういう首飾り……持ってるんだろ?」
あたしは写真を見せつけた。
ロワは納得し、頷く。
「……それで」
「お前か、母さんか――、どっちが隠そうとしたのか分からないけど……」
あたしは一冊の本を取り出した。
本というか、冊子。
さすがに原本は持ってこれなかったので、(人の物だったし)コピーさせてもらって、
角を留めて、束にして持ってきたのだ。
それは小説だった。それは絵本だった。
どっちのパターンもあるけど、あたしが持ってきたのは、絵本の方だ。
世間にはあまり出回っていない、マニアックなものだと言っていた。
この本には人気がない、以前に、あまり出回っていない貴重なものだ。
世界でも二桁の数しか存在していない。
出版されて、すぐに絶版になったくらい、希少価値が高いものだ。
希少価値が高くとも、絶版されたという事は、問題があるというわけだ。
良くない理由があるから、出回らなくなった。
そう考えると、希少であっても、所持したくはないだろう。
よほどのマニアでもない限り。
「その本がどうかしたの?」
「どうして絶版になったと思う?」
軽い感じで質問したので、
ロワも真剣には考えなかったようで――、さあね、と不愛想に。
「ノンフィクションだから」
あたしはそして、本の内容に触れるキーワードを教える。
「竜と、竜の精――封印と復活の物語」
世界の現状と、巨木シャンドラの、その秘密。
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