第26話 探しものを拾いに

「フォルタ姉様も、シータ姉様のこと、好きだよね。

 だから両想いじゃん。人のこと言えないよ」


 シータ姉様が劣勢だったので、ちょっとした助け船。

 一応、うちにも見えるフォルタ姉様の視界があって、

 ことあるごとにシータ姉様を追っていたから、そう思った。


「ふ、ふん。確かに好きだけど、くせが分かるほど、アブノーマルじゃないわよ」

「さり気なくわたしをアブノーマルだと断言してる……」


「そうなんだ。腰のラインばっかり見てたのに?」

「サヘラ、口を潰すぞ」


 冗談とは思えない表情と口調で言われた。……うち、ドン引きだよ。


「……フォルタは、腰フェチなのか」

「そこ! 勝手な解釈をしないでくれる!? 誰が妹の腰を見るのよ!」


「昔っから視線を感じると思ったら、

 フォルタがあたしの腰ばっかり見てたのかー、すっきりすっきり」


「私はいま、ものすごくモヤモヤしてる!」


 飛び入り参戦したテュア姉様が、場をかき乱して去っていった。

 一言でこの破壊力、さすがだった。そして最高だった。


 足を挫かれたようなフォルタ姉様は、勢いがなくなり、深く椅子に座る。

 カップを持ち、コーヒーは入っていないけど、落ち着き始めた。


「まあ、そんなことはいいじゃない」


「逃げたね」

「逃げたな」

 うちとシータ姉様の声が揃う。


 まあ、追及しようとも思わないし、しても絶対に誤魔化されるだろうから、いいんだけど。


 ただ、本当にシータ姉様ばかりを見ていた。

 暇さえあれば、シータ姉様を目で追っていた。

 たぶん、それがシータ姉様に勘付かれて、正体がばれたのかもしれない。


 それか、見え過ぎてしまう目のせい……、

 そう考えてしまうと、フォルタ姉様の行動も、不用意な点が多かった。


 終わったから言える事だけど、シータ姉様でなくても気づけそうな――。

 テュア姉様はもしかしたら、気づいていたのかもしれない。


 本当に、終わってからしか言えない事だった。


「私を野放しにしていていいのかしら? 一応、私はロワ姉様の味方よ」


 コーヒーを片づけ、椅子に座り直したフォルタ姉様が、うちらを見回した。


 うちとタルト姉は脱獄、シータ姉様は脱獄の加担、

 テュア姉様は、家出……、家出って理由は、うち以外の全員が当てはまっちゃうんだけど、

 そこはとりあえず放置。四人それぞれが、フォルタ姉様に捕まる理由があるのだった。


 だからエゴイスタを仕掛けられたのだ……、

 危機はなんとか回避できたけど、エゴイスタが展開されていないだけで、

 フォルタ姉様はしっかりとこの場にいる。


 フォルタ姉様自身が、ロワ姉様の味方だと言っている以上、見逃してはくれないはずだ。


 ロワ姉様は厳しいからなあ……。


 だからフォルタ姉様の事は、縛り上げて、

 どこかにくくりつけておくべきだとも思うけど……、

 そんな事、うちじゃなくても分かる。

 絶対、テュア姉様が分かっていると思う。


 でもしないって事は……、考えがあるのだろう。

 いや、ないのかもしれないけど。


「わたしたちの事、ロワ姉さんに報告するのか?」


「当たり前じゃない。私が捕獲できなかった事も言わなくちゃならないから、

 怒られる事も覚悟しなくちゃいけないけどね――。

 私は聖職者だから、神様でなくとも、上司に向かって嘘はつかないの。

 ……家出して、姉妹でなくなったテュア姉さんの言う事は、聞かないわよ?」


「いいよー、別に。昔からあたしの言うことを聞いていたわけじゃないじゃん」


 フォルタ姉様は昔から教会に入り浸っていた。

 神様を熱心に信仰していた、生粋の聖職者ってほど、真面目ではなかったけど、

 精神的な拠り所にしていたのだろう――厳しい教育に疲れた時とかに。


 あとは、当時は最年少だったシスターとして、可愛がられていたと聞いている。


 うちも昔は、姉様が子供扱いされているのが、不思議だと思っていたし。


 活発に外で活動するテュア姉様とは、タイプが違う。

 だから接する事も少なかった。

 テュア姉様よりも、ロワ姉様と一緒にいる事が多かったのだ。


 ロワ姉様、アッコル姉様、フォルタ姉様――、

 なんだか、この三人はセットでいるのをよく見る。


 真面目で融通が利かない、委員長タイプの集まり――タルト姉が苦手な三人だ。


「なら、私が今ここで、ロワ姉さんに連絡をしてもいいってわけよね?」


 ホールに、シスターはフォルタ姉様一人。

 電話一つで、連絡は簡単に取れる。


 膠着こうちゃく状態の今、

 身動き一つでうちらの状況がロワ姉様に知られてしまうんだけど……、


 シータ姉様もテュア姉様も、落ち着いた様子だった。


「サヘラ」

 ぐいっぐいっ、とうちの袖が引かれたので振り向く。


「どういう状況になってるの?」

「今までなにを聞いてたの……なにをしてたの」


 タルト姉がきょとんとしていた。

 頬のところがちょっと赤い……、

 まさか、テーブルに突っ伏して寝ていたんじゃないよね……?


「もしも……そうだったとしたら?」

「最悪だよ」


 なにを黒幕みたいな雰囲気を出してるの。

 誤魔化そうったって、フォルタ姉様、登場の前後に寝ていた事は帳消しにならないから。


 仕方ないので軽く、タルト姉にも今の状況を説明する。

 説明と言っても、見ての通りなので、二言くらいで終わってしまった。


「ふーん、そうなってるんだねー。でもさー、

 だったらフォルタお姉ちゃんを味方にしちゃえばいいんじゃない? 

 手伝ってもらえばいいんだよ、首飾り探し。

 事情を説明すれば、脱獄の件も見逃してくれるよきっと」


「……無理だよ。ロワ姉様派のフォルタ姉様は、頭がかっちかちだもん。

 シータ姉様が説得しても、折れてくれるとは思えないよ……」


 ロワ姉様が動かないと、きっと動かない。

 ロワ姉様のために、姉様は動いているから。


「やってみなきゃ分からないと思うんだけどねー」


 タルト姉はのん気なものだった。

 お姉からしたら、やってみなきゃ分からないのだろうけど、

 うちからしたらやらなくても分かってる。


 だからやらないって理由には、確かにならないかもしれないけど……、

 どうせダメだと思って、足がすくんじゃう。


 うちはやっぱり、姉様たちが苦手だった。タルト姉は例外にしても。


「タルトの言う通りだな。やってみなくちゃ。

 元々、説得はするつもりではいたんだよ」


「説得? 交渉の間違いじゃなくて? 私を動かすための材料は高いわよ?」


 説得よりは、交渉の方が言い方としては可能性がありそうだ。

 でも、誰がどう説得したところで、求める要求は見逃してほしいという結果なのだ。

 フォルタ姉様が頷くとは思えない。


 タルト姉が探している首飾りにしたって、協力してくれるとも思えない。

 協力の前に、うちらは捕まってしまうから。


「協力してほしい……って言うか、協力してくれないと、困るんだよ……。

 本当は誰にもばれずに、タルトにも知られずに済ませるのが、それがいちばん良かった。

 でも、こうしてばれちゃってる――じゃあもう一緒だ。

 十三姉妹――、一人を除いた全員を味方につけてでも、達成させたい目的がある」


 だからあたしは戻ってきた。

 長い長い、四年間の旅から、たった一人の少女を救うために。


 そう前置きして、テュア姉様が語り出した。


 真実を――うちらが知らなかった、十三姉妹に背負わされた、役目を。


 全てを一人で背負い込む、少女の葛藤を――。




「――なによ、それ……。手伝うしか、ないじゃない……っ」


「許せるか? 許せないだろ? だから今だけ、あたしにつけ。

 あたしはあいつの目を覚ます。

 そんな事をされても、あたしらは全然、嬉しくもなんともないって――、

 ここまで大きく事態が膨らんじゃったなら、直接、言ってやる」


 全てを聞いて、怒りが湧いてきた。

 なんて、身勝手なの……っ。

 これならいつもの迷惑なタルト姉の方が、全然マシだった。

 こんなの、だって――裏切りと一緒だよ!


 シータ姉様は元から聞いていたのか、驚きは少なかった。


 そして、タルト姉は――。



「正直、怖くて、苦手だった、けど――良いお姉ちゃんで、今でも大好き。


 だから、このまま消えちゃうなんて、絶対にやだよ。


 絶対に、そんなことをさせたくない!」



 うち、テュア姉様、シータ姉様、フォルタ姉様――、

 全員の手を取り、タルト姉が引っ張っていく。


 強い力で、一直線に。

 真っ直ぐで正直なタルト姉の気持ちは、全員の代弁になる。



「ロワお姉ちゃんを――助けにいこう!」



 ロワ姉様と首飾り。


 テュア姉様の突然の訪問の理由が解明された。


 そして、四年前の事件以来――、



 十三姉妹の柱である二人が、遂に対面する事になる。

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