第24話 フォルタ・エゴイスタ
うんうん、と頷きそうになったけど――ちょっと待って!
「……え!? フォルタ姉様が、この部屋に隠れてるって事!?」
「違うな……あいつの性格からすると、誰かの中に潜んでる……、のも違うな。
成りきっているってのが、あいつらしい」
「……それ、確実、なの……?」
「だから、結論に近い可能性の一つって言っただろ」
そう言えば言っていた。
うち、興奮し過ぎて、数秒前の会話すら忘れていた。
でも、フォルタ姉様が誰かの中に入って、その人に成りきっているなんて……、
そんな突拍子もないことを、いきなりじゃ信じられないし……。
「エゴイスタは突拍子のない事のオンパレードだよ。
条件付きで不可能を可能にする。
まあ、ずっとは無理だから、限定的なものだけど――言うならシンデレラタイム」
有名な物語なのでうちも想像がしやすかった。
「なるほど! じゃあキスしたら解けるんじゃない?」
……? タルト姉はまた意味の分からない事を――って、ああ、それ白雪姫だね。
タルト姉には上手く伝わらなかったらしい。
「夜中の十二時までにキスをしたら、玉手箱がもらえるんだっけ?
……で、月からお迎えがくる」
色々と混ざり過ぎてる。
しかも、国とか関係なくなってるし。
色んな事を中途半端にかいつまんでいるから、博識に見えてバカなんだよね。
「まあ、そんな感じ」
ぶん投げたーっ!
勘違いしたままのタルト姉は、知識を披露できて嬉しいのか、笑顔だった。
テュア姉様、その笑顔を壊したくなかったんだろうなー……。
でもたぶん、言ったところでタルト姉は気にしないと思うけど。
「エゴイスタってのは、なんでもありだから、
誰かの精神にフォルタがいたって、不思議じゃない」
テュア姉様は全員を見回した。
「する質問でもないと思うけどさ、自分の中にフォルタがいるよ! って人、いる?」
確かに、する必要のない質問だった。
ここで手が挙がるわけがない。
いてもいなくても、変化はないだろう。
いなければ言わないし、もしもいれば、
フォルタ姉様がなにも対策をしていないわけがない。
手を組む、言いなりにされる――、つまり、誰も手を挙げない。
操られていなければ、質問の前に報告しているはずだしね。
だから、する必要のなかったものだ。
でも、これをとりあえず言わないと、始まらないのも確かだった。
「あんまり、こういう役はしたくないんだけどなあ……、でも、言い出しっぺだし」
葛藤を数回、繰り返し、シータ姉様が、
「サヘラ……あんたがフォルタ?」
「うちじゃないよ! なんでうちから!? そんなに怪しかった!?」
「まあ、ひとりごとが多いし、怪しいっちゃ怪しいけど」
「それは違う意味じゃないか!」
うち、怪しいの!?
普段から不審者みたいな印象を持たれているとしたら、反省点だ!
シータ姉様は一応、全員を試すらしく、続ける。
「テュア姉さん……もしかして、フォルタ?」
「ち、違う! あたしじゃない!」
「なんでそんな怪しい言動を自分から!」
噛み気味だったりするのは、演出なのだろうけど、今はいらないよ!
「一度やってみたかったんだー。
疑われた時、犯人じゃないけど、こう言って場をかき乱すの」
「迷惑過ぎる協力者だよ!」
次――、
シータ姉様がさっきと同じく、タルト姉に質問。
「ふふっ――見破られちゃったか」
腕を組み、顎を上げ、見下すポーズで格好をつける。
偉そうなイケメンポーズだ。……似合ってるんだよなあ。
「違うな」
「違うぞ」
「うん、違うね」
うち、シータ姉様、テュア姉様が頷く。
タルト姉の表情とセリフが活き活きしているから、演技だって分かる。
騙してやろうって魂胆が、ばしばしと伝わってきていた。
もう、存在が口ほどにものを言っている――。
テュア姉様と違って、タルト姉は今の行動について、ネタ晴らしをしないから質が悪い。
演技だって分かってはいるんだけど、万が一、本当だったらと思うと――、
こういう事を考えなくちゃいけないから、面倒くさい。
「……タルト姉、嘘でいいんだよね?」
「嘘でいいよー」
『で』いいよ?
また、面倒でどっちつかずの言い回しを……!
何度か質問し、やっと嘘です、と言わせたので、達成感がすごい。
……はぁ、無駄な時間だった。
そう思うと、虚無感も負けていない。
感情がもうめちゃくちゃ。
一人じゃ処理できない分量だ。
「シータ姉様は、違うよね?」
「違う、……と思うけど。確実とは言えない。
絶対に違う、と確信を持って言わせるほど、あいつだって馬鹿じゃない。
乗っ取っている本人に気づかせないくらいは、普通にやる。
だからこの質問も、実は無駄なんだよな」
「じゃあ、どうやって見つけるの……? うちらじゃあ、不可能じゃん!」
「そうでもない」
シータ姉が意外な反応を見せた。負けゲー、ではない?
「くせとか、特徴とか、そういうのを観察していれば、数人くらいは気づくでしょ。
しかもこの場にはわたしがいる。
……フォルタが、えっと……、
――大好きなわたしが、あいつのくせを知らないとでも!?」
少しの溜めの間に、心を殺したのが見えた。
まだ、真っ赤に照れてる方が可愛げがあったのだけど、
心を殺しているから、無表情だった。
死んだ魚のような目をしている。
くせ、くせ、くせ。――ああ、ダメだ。
うち、フォルタ姉様のこと、滅多に見ないし。
それもどうかと思うけど。自分がフォルタ姉様だったら、これはかなりショックだ。
いやでも、いくら姉妹でも、くせとか、覚えるほどまで観察しないけどね。
普通だよね、覚えていなくちゃいけない、わけじゃないよね?
「わたしは当然、知ってる」
こんなのがいるから常識が揺らぐのだ。
シータ姉様を基準にしてはダメだ。
いま気づいたけど、けっこう重度な、シスコンだったりする?
「じゃ、まあ。
わたしが思った事を先に言うわ――、
フォルタがいるの、サヘラでしょ?」
な、なんだってーッ!?
いや、ほんとにマジで。
驚き過ぎて、口から声が出なかった。
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