第23話 答え
服を着直す。
容赦なく全裸に剥かれ、全ての部位を舐め回されるように触られた。
くすぐったいってレベルじゃなかった。
変な声、たくさん出たし……。
タルト姉は大笑い、シータ姉は意外と平気そうだった。
二人とも、頬は赤く、上気しているけど。
「貧、貧、普か……サヘラは仕方ないにしても、タルトは努力が足りない」
「胸か! 胸の話なのか!」
なぜか服を着ないままのタルト姉が、全裸姿で胸を隠す。
腕を交差させて、両手を使い。
つまり、隠すべき下半身が丸出しになっている。優先度が違うよ……。
テュア姉様は言われるまでもなく、自ら服を脱ぎ、自慢の……、それを見せびらかす。
隠しもしない。
タルト姉に比べれば、ぜんぜん大きいシータ姉様でさえ、
テュア姉様のそれを見て、歯を食いしばっていた。
シータ姉様でも気にするんだね……、誰でも気にするか。
気にしないのはまだお子様な妹たちと、
筋肉マニアのリフィス姉様くらいか。
タルト姉でさえ、胸の大きさは気にしているらしい――あのタルト姉でも!
一応、うちは成長期のはずなんだけど……、
ぜんぜん大きくならないのは、そういう運命だからなのか?
……気になる事ができた。
「シータ姉様」
「どうした? 自分の変化に気づいたの?」
「変化なんてしてないわっ! ずっと小さいままだよ!」
うちの剣幕に、シータ姉様が退く。
……はっ、つい胸の話かと……。
「……えっと、確かサヘラは、十三歳だったよね……?
なら大丈夫だよ、わたしだって十三歳の時は、それくらいに近かったし」
「プラス方面に? マイナス方面に?」
「…………プラス方面」
結局! 大きい人は、うちと同じ年齢でも、ある程度は大きいんじゃないか!
それくらいに近かった、とか、曖昧な言い方で誤魔化したのは、
直接、真実を告げるのが嫌だったから――、
シータ姉はうちの胸がこのまま成長しない、
しても貧からは抜け出せない事を分かっている。
なんて姉だ。餌をチラつかせて喜ばせ、熟成した後に叩き落とす、外道なやり方!
アッコル姉様とフルッフ姉様のやり口を感じる……。
姉妹だし、似ているのは当たり前だけど。
「分かってはいたけど、やっぱり身体的変化じゃなかったか……。
誰かの胸が大きく、小さくなってたとか、分かりやすかったら良かったんだけどな」
「フォルタがそんな簡単な仕掛けを作るはずないよ。
貧乳を絶壁にするとかはしそうだけど……」
うちらにとっての女性の部分を殺しにきている所業だった。
絶対にやらない、と言い切れないのが、性格の悪い姉たちらしい。
「テュア姉さん、さっさと服を着て。
タルトも、裸に靴下だけ履いてやめるな。ファッションに殺傷能力があり過ぎる」
よくもまあそこで止めておけるよね……、
見た目もあるけど、着心地だって違和感があるだろうに。
渋々(いや、なんでだよ……)服を着たテュア姉様とタルト姉。
さっきの状態に戻ったところで、結局、振り出しに戻った。
ああいや、身体的な変化ではないと確信できたのだから、前進はしたのだろう。
一歩、とは言えないけれど。
「じゃあ精神的なもの?」
タルト姉が思いついたように言う。
また、テキトーな事を……、あれ!?
別に、的をはずした提案というわけでもなかったのか!
いつもいつもテキトーな事を言ってるから、つい流れで非難しそうになったよ。
「サヘラがわたしの事、どう思っているのかよく分かったよ」
「隠してるつもりはないんだけど……」
「でも、内面的な事と言っても、確認しようがなくないか?
テュア姉さん、なにか良い案でもあったりする?」
「フォルタなら――どうすると思う? それが分かるのは、シータだけでしょ?」
言われて、シータ姉様は考える。
フォルタ姉様だったら……、
エゴイスタを展開させた時、どういう条件を突き付けてくるか。
そんなもの、シータ姉様でも分かるものじゃないと思うけど……。
「エゴイスタを使った時、その条件を調べて統計を出せば、傾向が分かる。
可能性の高いものを、少ない選択肢にまで絞ったら、
ぜんぶ試してみれば当てはまると思うよ……。
ただ、統計を出すための前例のほとんどを出すのが大変なんだけどさ」
テュア姉様はシータ姉様を見た。
そして、にぃっ、と笑った。
「シータはフォルタが大好きだからな。ぜんぶ知ってるはずだよ」
「そこ! 勝手な事を言わないでくれるかな、姉さん!」
「いいじゃん。あたしに懐いてくれているくせに、フォルタの方を優先するじゃんかー」
「気にしてるのか!? だからわたしのこそばゆいところを話すのか!?」
へー、シータ姉様の憧れが、テュア姉様っていうのは知ってたし、
だから男勝りな感じなのも納得してたけど、
憧れよりも好きな人がいたなんて……、しかも身近な人。
アッコル姉様にとってのリフィス姉様のような……、その逆もまた然り。
双子のベリーとショコナのような、互いに信頼を寄せる、
姉妹の中でも特別、親しいパートナーのような。
シータ姉様とフォルタ姉様も、そういうパートナーと言える二人なんだけど、
ふーん、シータ姉様が好きなのは、フォルタ姉様なんだねえ。
自然な流れとも言えるけど、双子の妹は別にして、
アッコル姉様とリフィス姉様は、意外と互いの事には淡泊だ。
倦怠期じゃないんだけど、逆に、ずっと仲が良いんだけど、
雰囲気はそれっぽいのだ。互いを知り過ぎて、一緒にいなくとも一緒にいるみたいな……、
まあ、あれは次元が違うのかもしれない。あれと比べてしまうのも、酷かもしれない。
シータ姉様は、恥ずかしそうに顔を背けた。
フォルタには言うなよ、と視線で釘を刺された。
いや、もう遅いと思うけど……、気づいていると思うよ。
姉妹の中でのパートナー。
年が近いから、一緒にいるのが多くなるという理由で決まる事が多い。
双子なんてその極致だし、アッコル姉様とリフィス姉様は順番だし、
フォルタ姉様とシータ姉様も同じく。
ロワ姉様、テュア姉様、プロロク姉様……、
この辺はちょっと面倒な事情を抱えている。
うちの知らない部分なので、当然、関係も分からない。
なんだか、立ち入れない領域だ。
となると、うちはタルト姉と特別、仲が良い事になるのだろうか……、嫌だなあ。
じゃあ、他に親しいと言えば、フルッフ姉様なんだけど……、嫌だなあ。
なんでうちの周りには、変人、奇人しかいないんだろう。
こうなったら末っ子のシレーナを捕まえて……、と思ったけど、
あの子は九歳で、けっこう大人っぽい。
ませているっていうか、言葉の一つ一つが、心にグサリと刺さる。
……なぜか、うちが避けて過ごすという、情けない関係が出来上がってしまっていた。
……どーにも苦手だ。
姉を全員、出し抜いてやろうって魂胆が、薄っすら出ているのが怖い。
そして、それをやり遂げそうなところがさらにね。あれは一番の悪女だよ……。
なんて、うちが得意とする、思考で泳ぐという遊びをしている時、
シータ姉が、はっ、となにかに気づき、かぁっ……と、顔を真っ赤にさせた。
ホールの壁に手を当て、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! と思い切り、深く息を吐く。
……数秒の沈黙後、顔を上げた。
「……最悪なんだけど」
聞く方も最悪の気持ちだよ……。
「あっはっは、その顔、大好きだわ!」
なんだかんだと、テュア姉様も性格は悪いんじゃないの……?
女の子が好きで、笑顔だったり恥ずかしい顔だったり、積極的にさせようとしてくるけど、
もしかして、苦しんでいる表情も好きだったりする……?
「テュアお姉ちゃんは喜怒哀楽、ぜんぶ好きだからね」
「変態までいるよ、コンプリートだよ!」
ろくな姉がいなかった。
ろくな妹もいなかった。
常識人なのはうちだけじゃん……。
「サヘラの戯言は置いておくぞ」
うち以外の二人が頷く。
……? なんのこと?
「結論………に近い、可能性の一つ」
シータ姉様が言いにくそうに、けれど覚悟を決めて、
「――この中に、フォルタがいる」
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