第6話 希少能力
「いきなりきて突撃して、人の事を気絶させておいて、
眠っている内になにをしていたかと思えば――、
私の、恥ずかしい事を、暴露しててー、もうッ!」
「大丈夫だよ! 話したエピソード、ぜんぶ可愛かったもん!」
「そういう問題じゃない!」
大声を出したプロロクお姉ちゃんは、限界がきたのか、くらっと後ろに倒れた。
ベッドの上に寝転ぶように。
そして、掛け布団を体にくるくると――まるで巻物みたいだった。
「もう嫌。動画配信、もうできないよ……」
「わたし、楽しかったよ?」
「そりゃそうでしょう! だってタルトはなにも傷を負っていないんだから!」
「わ、わたし、良かれと思ってやったのに……」
しゅん、と落ち込んだ振り。
「あ、ああ、ち、違うのよタルトちゃん、わた、私も、自分のプライべ―トを暴露されて、
その、パニックになっちゃって。今の強めの言葉も自然に出ちゃったって言うか……、
ごめんね、ごめんなさい。だから泣かないで。ね?
ほら、よーしよしよし、棒付きキャンディー、どれか一つあげるから」
「本当!?」
「うん! ……でも、棒付きキャンディーで喜ぶなんて、タルトちゃんはちょろいなあ。
シレーナちゃんですら冷たい目で『物で釣るの?』って言ってくるのに。
ベリーちゃんとショコナちゃんも、あんまりお菓子でご機嫌、直してくれないんだよね。
あ、でも、サヘラちゃんは大仰な口調だけど、目を輝かせてくれるから私も嬉しいんだあ」
「序盤にぼそっと、ちょろいと言った事をわたしは忘れないよ!
そんな事を言うなら、お姉ちゃんだって、
わたしの落ち込んだ振りにまんまと騙されたくせに!」
「わ、私を騙したの!?」
「あ、しまった!」
つい口に出てしまった!
咄嗟に、ううん、と首を左右に振る。
「騙そうとしたんじゃないんだよ? お姉ちゃんに心配してほしかったんだ」
「そっか……」
いや、ほんとにちょろいよお姉ちゃん。
「まあでも」
お姉ちゃんは『配信終了しました』と出ている画面を見つめ、細く、白い指先で撫でた。
「みんな楽しそうだったし、それもタルトちゃんのおかげなんだよね。
……ありがとう、大好き」
「……そんな顔、きゅんとしちゃうよ……っ!」
写真に収めて、さっきまで言い合いをしていたファンの人たちに贈ってあげたかった。
それを言ったら、プロロクお姉ちゃんは、絶対にダメ! と言葉を曲げる気はなさそうだ。
なんだよもー、絶対にみんな嬉しがるのに。
「タルトちゃんはネットの怖さを知らないのよ……、
一度、出回った個人情報は、なかなか消せないんだから……。
あれだって、まだ片隅に残ってるんだし……」
ぼそぼそっと、消え入りそうな呟き。
なんだか、開けちゃいけないパンドラの箱でも、てこの原理でこじ開けちゃったかな。
「あ、そう言えば、やけにお姉ちゃんに詳しい人が中にいたんだよね。
それも昔に流出しちゃった個人情報を細かく知ってた人なのかな?」
「誰!?」
「えっと、白衣騎士って人」
「白衣騎士!」
お姉ちゃんはパソコンを操作し、動画配信中のコメントを素早く読んでいく。
スクロールが早過ぎて、わたしじゃぜんぜん読み切れない。
一度見たコメントだからかもしれないけど、いくつかは読み取れたんだけど。
「うそ……、私がネットで明かしていない個人情報まで漏れてるんだけど!」
「乙女恋愛シミュレーションゲームで、画面に映る男の子におやすみのキスをしてた事?」
「お願い口に出して言わないでーッ!」
顔を真っ赤にして、手をぶんぶん振るお姉ちゃん。
わたしの中のサディスティックが産声を上げた。
「自分を主人公にした二次創作を、百話以上、小説投稿サイトに投稿していたんだね」
「超ド級の黒歴史を的確に選び取ってきた!」
「大丈夫だよー、だってわたしたちにはサヘラっていう、一番の激痛少女がいるじゃん」
「あの子がいるからまだ大丈夫、っていう保険も、そろそろ効力ないよ?」
ありゃ。
いくらなんでも数年も誤魔化せないか。
「でも正直、お姉ちゃんの黒歴史って言ってた事、別におかしな事じゃないと思うけど」
二次創作の小説だって、ゲームの男の子に恋する事だって、
原曲をアレンジして歌を歌って配信する事だって、
ファンのためにお喋りをするだけの動画配信をする事だって――、
わたしじゃできない事だもん。
人ができない事をできるって、とってもすごい事なんだよ?
「ありがと。そう言われたら、そうかもしれないって思えてきたかも」
人の言葉を鵜呑みにするというか、
なんでも信じちゃうお姉ちゃんは可愛いけど、心配になってきたよ……。
誘われたら誰にでもほいほいついていっちゃいそう。
ただでえさえ、見た目は男の子ほいほいみたいに、エサをチラつかせているんだから。
「でも、配信が楽しかったのはほんと。
今度一緒にやろうよ。姉妹でアイドルみたいに売り出していこうよ!」
「ノリノリだね、タルトちゃん」
お姉ちゃんはベッドに座って、クッションを抱きしめ、体育座り。
背もたれに背中を預けて、わたしが作る料理を待っている。
料理ができないお姉ちゃんは、インスタントな、
温めたら料理ができる便利な商品を持っていた。かなりストックされている。
そのため、食材がまったくない。
わたしは料理ができるけど、食材がなかったらできるものもできやしない。
いつもは食材を持ってくるのだけど、今日はマスターのお店から直接きたから、
食材も持参していない。
そんなわけで、今日はレトルトの料理。
数多くのスパイスと野菜と肉を混ぜ込んだスープを、白米にかけて食べる。
おいしい、けど、やっぱり味に物足りないなあと感じてしまう。
けどまあ、日々の食事には問題ないかな。栄養は偏りそうだけど。
「タルトちゃん、今日はいつものお世話をしにきてくれたわけじゃないんでしょ?」
お世話される気満々のセリフだった。
自分で生活しようとする気がないらしい。
最近は末っ子のシレーナが、ちょくちょく遊びにきているらしくて、
それがさらにお姉ちゃんをダメ人間……、お姉ちゃんの場合はダメ亜人か――にしている。
有能な妹を持つと、姉は楽だけど大変だなあ、と、しみじみ思う。
「占いかな?」
「うん――できる?」
できるよ、とお姉ちゃんは頷く。
長女のロワお姉ちゃん、次女のテュアお姉ちゃん、そして三女のプロロクお姉ちゃん。
この三人は、なんだか人の心を読んでいるかのように、鋭い時がある。
この三人には絶対に敵わないなって、たぶん、姉妹のみんなはそう思っていると思う。
「タルトちゃん、なにを占ってほしい?」
取り出された水晶。
鏡面には、わたしの緊張した顔が歪んで映っていた。
「綺麗な首飾り……」
テュアお姉ちゃんからもらった首飾りの写真を、プロロクお姉ちゃんにも見せる。
水晶玉の前でくるくる回して、入念に観察していた。
「占いをしなくても分かったりする?」
「ううん、占わなくちゃ分からないよ。見た事もないし……、
これ、貴重なもの、なんだよね?
これに使われてる素材は、お店とかで手に入るようなものじゃないもの。
ダンジョンの奥深く、そこでも見つかるかどうか分からないくらいのオーラが見える」
へー、そんなのが見えるんだ。わたしには当然、見えない。
じゃあ、わたし以外の人が見えているのかと言ったら、きっと見えていないと思う。
占いを職業にしている人は、
湯気みたいなオーラや、血管を流れるような、気……、
周囲に漂う、魂から伸びた、枝のように分岐する『可能性』が見える。
そして、因果関係は逆ってこと。
そういうものが見えるから、占い師になった人が多い。
生まれつきの体質で、魔力に刻まれた特権。
種族に備えられた能力とはまた違った、
選ばれし者の
「この首飾りが今どこにあるのか、占ってほしいってこと?」
「うん、そゆこと」
「ところでこれ、タルトちゃんが失くしちゃって、見つけたいって依頼でいいの?」
テュアお姉ちゃんからの頼み事だというのを、話すべきか悩む……。
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