2章 時は金なり、レイトリーフ救出劇【語り:ラド】
第16話 休息の拠点
目が覚めた時、見知らぬ天井が見え――、って、いまおれ裸じゃねえか!
ふかふかベッドに横になりながら、下半身がすーすーすると思ったら、
まさか、なにも身に着けていないとは。
上に掛けられた布団がなければ、大変な露出狂だ……、
ただの変態じゃねえか。
「あ、やっと起きた」
ちょっと待ってて、と、立ち去っていくのは、レイトリーフだ。
今更だが、そのオレンジ色のふわふわっとした服は、
この家の内装にマッチしていて、完全にパジャマだ――、ラフな格好過ぎる。
しかも、ショートパンツが丈の長いパジャマに隠れて、
まるでなにも穿いていないように見えているんだけどさあ……、
いやまあ、穿いていないのは、おれだろって話になっちゃうが。
とにかく、早くズボンを穿きたい。
しかし、どこにある……。
手近なところにはないが、部屋を見渡すと――あった。
部屋干しされている。
上下共に、おれの服装ワンセットが、吊るされていた。
「さて」
見た感じ、水分を吸っているな……、うーん、もう生乾きでもいいや。
下半身が丸出しなのは、やっぱり落ち着かない。
早々にベッドから降りようと体を動かしたら、急に力が抜けた。
ぐるり、と掛け布団を巻き込み、地面へ落下してしまう。
掛け布団を下敷きにして、天井が目の前に見える――、
仰向けの状態で止まり、
上半身の激痛が、なぜかまったく鎮まらない。
「なん、だ、これ……?」
上半身には包帯が巻かれていた。
――真っ赤だ。
滲んできた液体が、包帯を突き破り、滴り落ちる――、
これは……おれの、血。
床に広がっていく血溜まりを見ながら、指一本も動かせなくなった。
まずい。
動いちゃまずかったか……?
しかし、どうしておれはこんなにも重傷なんだ?
どうしてこんな怪我を、おれはしたんだ――?
「ラドー、作っておいたご飯が――ッ、ラド!?」
がしゃんっ、とお皿を落とし、レイトリーフが駆け寄ってきてくれる。
「み、見てないからね!?」
ぎゅっと目を瞑って、おれの体を持ち、ベッドに戻してくれる。
掛け布団を、おれの体にかけてくれた。
そして、上半身の傷口に、レイトリーフの指が添えられた。
線でも引くかのように、そー、と、指を這わせる。
「もうっ、安静にしていてって言ったのに。
って、あ。そっか、ラドは眠っていたから、知らないんだもんね」
ごめんね、私のミスだった――、
いや、謝る事はないよ。
レイトリーフが今まで看病してくれていたのだろうって事は、なんとなく分かるし。
たぶんこの治療も、二度目か三度目なのだろう。
指の動きに迷いがない。おれの傷を、把握しているようにも見える。
「たくさんの傷……、ラドはいつもいつも、あんな無茶ばかりするのかな?」
無茶……は、してないけどな。
「嘘ばっか。ばかばか」
おい、後半は完全に悪口だよなあ?
「ううん。そっちのばかじゃなくて、ばか力のばかだから」
ふーん、ならいいや。
力の強さってのは、誰も裏切らないからな。
「はいはい、治療はこれでおしまい。
安静にしてなくちゃ駄目だからね?
また無理やり動いたら、今度こそ傷がさらに広がっちゃうんだから」
さっきの、包帯に滲む血を思い出し、その通りだなと思った。
おれの怪我に詳しいレイトリーフには、黙って従っておこう。
それにしても、クマーシュとコロルはどこにいったんだよ……。
安静にしてベッドに寝ていなくちゃいけないって、すっげえ暇なんだよな――。
おれたち、即席のパーティは、どうやら八層に到達していたらしい。
ここで、変化があった。
石壁に囲まれているのは変わらないが、自然の緑が多い気がする。
しかもランプではなく、日の光が見えている。
石壁が所々、崩れており、隙間から日の光が当たっているのだ。
その光が太陽でないのは分かっているが、
たとえ、紛い物でも、これまでの閉鎖空間に比べたら、かなり気持ちが楽になった。
ベッド近くの窓の外には庭が見え、雑草が生い茂っている。
手入れがされてない……、なるほど、この家は元々、無人なのか。
「うん、たまたま見つけたの。
でもたぶん、たくさんの人が先に進むために使っていたんだと思う。
中は綺麗だし、食べ物もちょっとあったりしたから」
まあ、怪しいから食べなかったけど――、
きっと、まずそれを言ったのはコロルだろうな。
クマーシュなら、間違いなく普通に食べていただろうし、
レイトリーフも案外、気にしなさそうだ。
この子は結構、強かというか、マイペースで大ざっぱだ。
「ほほう、がさつだと?」
「言ってねえじゃん!」
で、それから。
おれがどうしてこんな傷を負ったのかも、レイトリーフが丁寧に教えてくれた。
おれとクマーシュで追っていた敵……、
あいつらは、『モンスターズ・ドットコム』と呼ばれる、魔獣なのだそうだ。
クマーシュとは、亜人なのだろうなと予想していたが、普通の魔獣だったとは。
だとしてもまあ、喋れるのもおかしくはないか。
魔獣と言われると獣ばかりを連想するけど……(まあ『魔』の『獣』だし)、
分類で言えば、消去法で除かれた以外が、全てそう呼ばれる。
人間ではなく、亜人ではなく、神獣ではないのならば、それは全て魔獣なのだ。
たとえば竜。
あいつらはかなり頭が良い。
お世辞ではなく、人間よりも良いのだ。
そして、忘れがちなんだけども、幽霊。
国や町で見かける幽霊を見て、みんなは悲鳴を上げて怖がるけど、
悪意ある魔獣は、神獣の加護によって国や町が守られているために、入る事ができない。
だからもしも幽霊を見かけたら、それは良い幽霊なのだ。
そう言えば、自縛霊ってみんなマゾなの?
「それ、自縛じゃなくて、地縛だよ」
「ほーん。放置プレイか」
「解釈は自由だけど……」
そう言われるとそういう目でしか見えなくなっちゃったよ……と、
レイトリーフは言うが――、幽霊ってあんまり見えないからなあ。
けど、おれの場合は姿は見えなくても、感情が色として見えちゃうんだなあ、これが。
怒りの赤色とすれ違うと、だから凄く怖い――たとえ、おれが狙いじゃなくても。
「レイトリーフ、なんだか嬉しそうだな」
「え、そうかな?」
うん。喜びは黄色だ。
「うん、嬉しいよ。だって、ラドが起きたんだもん。
ずっと眠ってたんだから――丸々一日も」
それを長いと取るか……、長いか――いや、長いか?
おれは疲れた時に、一気に睡眠を取るから、一日ずっと眠っている事は多々ある。
だから、おれにとっては日常茶飯事だ。
一日で起きたって事は、傷も、そこまで重傷ではなかったってわけでもある。
意識が戻るほどには、回復したのだから。
「クマーシュと、コロルは、どこにいったんだ?」
「食糧調達にいってるよ。
あとは、九層の入口を探したり。
ラドが動けるようになったら、すぐに次の層に向かえるようにね」
放っておいてくれてもいいのに。
いや、クマーシュはそんな事はしないか。
あいつは、このメンバーで進みたいと言いそうだしな。
「意外なのはコロルが従ったってとこだよ。
なんか企んでるんじゃねえ? だって、あいつは盗賊だし」
それに、あいつは有名な、泥棒ウサギだし。
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