第4話 竹の継ぎ足

「それから継ぎ足の代わりに、こんなものが箱の中に入っていました」

長椅子に置かれた細長い風呂敷包みの結びを解き、三すじが取り出したものに吟香とヘボンの目はくぎづけになった。

細い竹で編んだかごの一方に、白いさらしを巻いた差し渡し七寸くらいの竹筒が革ひもでくくりつけてある。もう片方には、一尺半ほどの長さの太い竹の棒が1本結びつけられていた。

「これは継ぎ足ですか」

 ヘボンがけげんそうにたずねる。

「そのつもりで作ったのでしょう」

「籠はソケットですね」

 なるほど、と吟香はうなずいた。ソケットとは足の切断部分にかぶせるものである。

「では、竹筒が太ももで、この棒が足の代わりでしょう」

 使い勝手がよいとヘボンが自ら選び注文したのはアメリカのセルフォー社製の継ぎ足である。

 ソケットと足首から先は筒型の板で作られている。これらをつないだ鉄はゴムでおおわれていた。船便の送料込みで二百両もかかったとても高価な継ぎ足である。

「代わりにこれを使ってくれというのでしょうか」

 吟香は渋い顔で言った。ふだんあまり感情を表さないヘボンも、口をへの字に曲げて竹の足を見つめている。

 以前ヘボンは「アメリカでは役者は立派な仕事だと認められている」という話をしていた。役者の命とも言える足を切ることになった田之助を、親身になって治療した。舞台にかける熱い思いを聞き、ぜひ継ぎ足を取り寄せましょうと勧めたのもヘボンである。

 継ぎ足がなくなったことで先生はさぞ落胆されているだろう、と吟香は心中を思いやった。

 ヘボンがゆっくりと吟香のほうへ向き直った。

「ポリス、横浜にまだいません。田之助さんの足、わたしの代わりに捜してください」

 午前中30人以上の患者を診察し、午後は医学生の指導や手術を行う日もあるヘボンの生活は多忙を極めている。継ぎ足を捜すことはとうてい無理だった。

 吟香は、すでにヘボンの元を離れている己に大事な仕事を任せてくれたことがうれしくて、必ず見つけますと力強く答えた。

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