Episode21:トライアングル・バトル
『私の計画を悉く邪魔して手駒を潰してくれたゴキブリ共か。丁度いい。貴様らもまとめて始末してやろう』
サディーク達の参戦にガープが怒りと殺気を向ける。サディークは不敵に笑って刀を構える。
「けっ! 始末されんのはテメェの方だっての! おい、デカブツ! まさかもうへばったんじゃねぇだろな?」
「ち……これから本気で戦おうとしていた所だ。だが……お陰でビアンカ達が助かったのは事実だ。それに関しては礼を言おう」
アダムが舌打ちしつつも礼を述べる。ビアンカ達が人質に取られているような状況で、彼一人では手が回らなかったのは事実だ。
サディークは一瞬意外そうに目を瞬いたが、すぐにふてぶてしい笑みを浮かべた。
「へっ、良いって事よ。んじゃ一丁、悪魔退治と洒落込むかよ!」
サディークは霊力を全開にしてガープに対峙する。アダムも改めて仕切り直す。一方少し離れた所ではペドロとビアンカ達を後ろに庇ったリキョウが対峙していた。
「中々いいタイミングで駆け付けてくるねぇ、旦那方。お陰でまだゲームの行方は解らなくなったね」
「……ビアンカ嬢との会話は虹鱗を通して聞いていました。それだけでなくあなたが野良犬から突然今の姿に変わって彼女達を捕らえた所も。あなたは……
「……!!」
ペドロが目を見開く。それはこの飄々としたラテン男が初めて見せる驚愕の表情であった。後ろで聞いていたビアンカも彼の素性に驚く。
「参ったねぇ。そういえば旦那は数年前まで中国統一党の高官でしたね。なら
ペドロは一瞬の驚愕を引っ込めると苦笑いを浮かべて頭を掻いた。リキョウは油断なく彼を見据えたままだ。
「ええ。と言っても概要だけですが。人間から様々な動物に変じる能力者……『シェイプシフター』達によって構成された、諜報や時には暗殺などの工作を専門とする特殊部隊。私もこの目で直に見るまでは信じられませんでしたが、あなたを見る限りどうやらシェイプシフターというのは本物のようですね」
「はっ! 仙獣とかいう謎生物を作り出して自在に操る
開き直ってふてぶてしく笑うペドロにリキョウは首肯する。
「アメリカの国威と国力を弱めて、メキシコの対米関係を相対的に優位にしようという所でしょうか?」
アメリカとは地続きの隣国であり、国境問題や移民難民問題を含めて常にアメリカとの間に火種がくすぶり続けているメキシコ。表面上は友好関係を保っているように見えるが、勿論それはポーズであり実際には面従腹背である事は容易に想像が付く。
ましてや現メキシコ大統領のアレハンドロ・サラザールは若き野心家の大統領として知られており、マフィア出身とも噂される危険な人物であった。リキョウの主である許正威からも警戒すべき対象として挙げられている。
「ご名答。そしてアンタらウォーカー大統領の協力者を始末しておけば、それもまたアメリカの力を弱める事に繋がるって訳だ」
今まで飄々としていたペドロの表情が引き締まり、その身体から強烈な殺気が発散される。戦闘が避けられない事を悟ったリキョウは、後ろを振り返らずにビアンカ達に退避を促す。
「ミス・ビアンカ。ルイーザ嬢を連れてここからお逃げ下さい。ご心配なく、すぐにお迎えに上がりますので」
「わ、解ったわ。気を付けてね」
リキョウがこう言うからには、あのペドロはかなりの強敵のようだ。ならばビアンカ達が近くにいては邪魔になるだけだ。
「ルイーザ、ここから離れるわよ。安全な場所に退避していましょう」
彼女はルイーザの腕を取って走り出そうとする。だが何故か彼女は動こうとせず、それどころかビアンカが腕を引っ張るのに抵抗した。
「ルイーザ、何してるの!? ここは危ないから……」
「……うるさい。父さんを死に追いやった傲慢な白人め。誰がお前の言う事なんか聞くものか」
「え……ル、ルイーザ?」
ビアンカは驚いてルイーザに向き直る。そしてさらなる驚愕に目を瞠った。ルイーザが
ビアンカは混乱した。ルイーザは女性なので当然悪魔ではあり得ず、魔力を発散するはずがない。それに何故いきなり白人がどうなどと言ってビアンカに理不尽な憎しみを向けるのか。訳が解らない。
『馬鹿め! みすみす『天使の心臓』を逃がすと思うか?』
多数の四面体を操ってアダムやサディークと対峙する悪魔ガープが嗤う。これは奴の仕業か。
『我が『
「……!!」
事件の発端となったキース・フロイトを
『やれ、ルイーザ! その白人女はお前の父親を殺した警官の仲間だ! 思う存分に怒りと恨みを晴らすがいい!』
ガープの叫びに合わせてルイーザが一歩踏み出す。
「殺す……。父さんを殺した白人は許さない……!」
「ル、ルイーザ、落ち着いて! あなたは悪魔に操られて――」
ビアンカは後ずさりしながら彼女を説得しようとするが、それを遮るようにルイーザが殺意全開で突進してきた。
「ぬあぁぁぁぁぁっ!!」
「っ!?」
ルイーザが拳を撃ち込んでくる。その拳から魔力が噴き出ている事がビアンカを驚かせた。本能的に身の危険を感じたビアンカが反射的に回避すると、ルイーザのパンチは後ろにあった車に当たった。
普通なら拳が砕ける所だが、逆に車のドアが大きくひしゃげて凹んだ。いくら鍛えていると言っても、人間のしかも女性のパンチではあり得ない現象だ。どうやらガープの魔力によって、ビアンカの装備している霊具に似たような作用がルイーザに付与されているらしい。
「……! ミス・ビアンカ!?」
ルイーザの異変に気付いたリキョウが思わず駆け寄ろうとするが、そこにペドロが割って入る。
「おっと! アンタの相手は俺だぜ、旦那? こりゃ思わぬ展開になったねぇ」
「ち……!」
リキョウは舌打ちする。このペドロは彼と言えど背中を向けて良い相手ではなさそうだ。麟諷をビアンカの加勢に向かわせるのも、相手が操られているだけの女性では殺してしまいかねない。
「大丈夫よ、リキョウ! 彼女の事は私に任せて目の前の相手に集中して! アダム達も!」
「……!!」
リキョウだけでなく、ガープに背を向けてビアンカの救援に駆け付けようとしていたアダムやサディークも、彼女のその言葉に動きを止めた。
「私も皆の仲間の一員よ! このくらいの状況、自分で乗り越えてみせるわ!」
「……っ!」
彼女の言葉に男性陣は目を見開くと、それから苦笑したように目の前の敵に向き直った。
「へ……そうだったな。それじゃそっちは任せるぜ、ビアンカ!」
「……彼女に諭されるとはな。俺はまだまだ過保護だったようだ」
サディークもアダムも一時ビアンカの事を意識から切り離して目の前の
「ふぅ……私もビアンカ嬢を信用しなければいけませんね」
リキョウもまた息を吐いて心を切り替えると、ペドロ相手に意識を集中させた。彼等が自分の戦いに集中した事で、ビアンカもまた目の前のルイーザだけに集中できるようになった。
「……一度戦ってみたいなんて言ってたら、思ったより早くその機会が巡ってきたわね。さあ、掛かって来なさい!」
「殺す……殺してやる、白人め!!」
ビアンカの挑発に目を炯々と輝かせたルイーザが、咆哮を上げながら襲い掛かってくる。ここに
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