Episode13:超能力部隊
「よくやった、ビアンカ!」
アダムが労う。3人はそのまま廊下の奥へと突き進んでいく。アダムが最初にスキャンした情報によるとこの辺りにはまだ他にも……
「……っ!」
廊下に並ぶ部屋の1つから男が姿を現した。銃ではなく何故か両手にブラスナックルのような物を嵌めていた。
その男が大きく息を吸い込むような動作をすると、何らかの『力』が男の身体から発散された事が感じられた。だが衝撃波やその他の超常現象が発生する事もなく、その代わりに男の身体が明らかに一回り以上
「邪魔だ!」
アダムが光線銃を放つが、何とその怪物男は粒子ビームを
「ビアンカッ!」
アダムが前に出て怪物男の突進を受け止めた。重量級の巨体同士、しかも双方ともに人間離れした怪力の持ち主だ。その衝突だけで轟音と衝撃が発生する。
アダムは即座に右腕のブレードを展開して男に斬り付けるが、男は驚異的なスピードと反応速度でそれを躱すと、ブラスナックルに覆われた鉄拳を連打してくる。アダムと肉弾戦で張り合うとは恐ろしいほどの身体能力だ。どうやら自分の肉体を強化する類いの超能力らしい。
息つく暇もなく、今度は別の廊下から男が1人駆け付けてきた。その男がビアンカに向けて手をかざすと、突如として彼女の服に火が点いて燃え上がった!
「……っ!? きゃああああっ!?」
「……!! ミス・ビアンカ!」
悲鳴を上げてパニックに陥りそうになるビアンカだが、リキョウが咄嗟に冥蛇の力で水を操り、燃え上がった部分を包み込んで消火してくれた。
その間に火付け男が再び手を翳していた。すると今度は廊下に散乱していた棚やカートなどが、何の火元も無いにも関わらずいきなり燃え出した。さらに燃え上がった炎はまるで独自の意志を持っているかのように自在に蠢いて、その燃え盛る舌でビアンカ達を舐め捕ろうとする。
「……! いわゆるパイロキネシスという奴ですか。こいつは私が相手をします! ビアンカ嬢は下がっていてください!」
リキョウがそう言ってビアンカを庇うように前に出る。そして迫りくる炎を消し飛ばすように冥蛇の水を操る。水と炎の戦いが始まった。
「……!」
ビアンカはそこで自分達の
だが考えている暇はない。アダムもリキョウも今は眼前の相手で手一杯だ。この3人目の男はビアンカ自身が受け持つ他ない。彼女だっていつまでも男達の後ろに隠れて守られているつもりはない。自分はあくまで彼等と同等の
(やってやる! 掛かって来なさい!)
彼女も下級悪魔や下仙相手には勝った経験もある。相手が超能力者だろうとやってやれない事はないはずだ。そう自分に言い聞かせて男を迎え撃つビアンカだが……
「……ッ!?」
彼女の目の前で迫って来ていた男が
「っ!!」
やはり超スピードなどではない。何故なら男が消えた地点と今現れた地点を結ぶ進路上には、瓦礫や物が散乱しているのに、それらが一切蹴とばされたりして動いていないからだ。まるで本当に二つの地点を
(――テレポーテーションッ!?)
そう思ったのも束の間、間近に出現した男が手に持っていたナイフを突き出してきた。不意を突かれて動揺したビアンカは咄嗟に躱すものの、大きく体勢を崩してしまう。そこに男が追撃でナイフを素早く煌めかせる。
「く……!」
ビアンカは体勢を立て直す暇もなく目の前のナイフに対処するので精一杯となってしまう。男はナイフ術の訓練を積んでいるらしく、その動きは素人がただナイフを振り回すのとは訳が違っていた。
ビアンカはそれでも廊下の後ろに跳んで何とかナイフを躱すと、強引に前に出て反撃する。とにかく相手にペースを掴まれたままなのはマズい。
男の脚目掛けてローキックを蹴り込む。シューズにも霊力が込められているので、当たり所によっては骨が折れる。そうでなくとも痛打によって相手の足を止める事が出来る。
だが必中を期したはずのローはあえなく空振りに終わる。男の姿が再び一瞬で消えたのだ。ビアンカのキックが虚しく振られる。
「っ!?」
全く予期しないタイミングで攻撃をスカされたビアンカが再び体勢を崩してしまう。それを立て直す前に、男が彼女の斜め後ろ辺りに出現した。斬り付けられるナイフ。体勢を崩していたビアンカは躱せずに、肩口を刃で切り裂かれてしまう。
「ぐッ……!!」
激痛に顔を顰めつつも動きを止めずに、振り返りざまに足払いを仕掛ける。しかしまた男の姿が掻き消える。そして今度は真後ろ……背中に男の気配を感じた。そしてナイフの振られる音。
「ぐぁっ!!」
反応する間もなく背中をナイフで浅く切られてしまう。苦痛にビアンカの顔が歪む。アルマンのチョーカーの防御効果によってこの程度の切り傷で済んでいるが、チョーカーが無かったら彼女はとっくに致命傷を負っていただろう。
激痛を堪えて必死に振り返る。だがその時には既に男の姿は消滅している。
そしてまた死角に男の気配が出現する。ナイフが煌めく。必死に躱そうとするが反応しきれず切り傷が増える。男に反撃しようと振り返ると、既に相手の姿は影も形もない。そしてまた別の死角に男の気配が出現する。ビアンカは完全に男の姿を捉えられなくなり翻弄されつつあった。
「く、くそぉ……!!」
破れかぶれに滅茶苦茶に拳を振り回すが、当然そんな物が当たる相手ではない。なけなしの抵抗を容易く掻い潜った男が、今度こそビアンカに止めを刺さんと彼女の首筋目掛けてナイフを滑らせてきた。
「……!」
首筋を斬られたら、例え軽減した浅い傷であっても命取りになりかねない。ビアンカは目を見開いて思わず硬直しかけ……
「ミス・ビアンカ!」
リキョウの声と同時にテレポート男の頭が顔ごとすっぽりと
「……!! ッ!?」
いきなり顔が水に覆われ、呼吸が出来なくなり肺に水を飲み込んでしまった男が一時的にパニックに陥る。得意のテレポートも使う余裕がなくなる。
「ふんっ!!」
そこにアダムがブレードを一閃。テレポート男の首が宙を舞った。間一髪で命が助かったビアンカは傷の痛みもあって、思わずその場にへたり込んでしまう。
「ビアンカ、大丈夫か!?」
アダムが側にかがみ込んで介抱してくれる。
「え、ええ……私なら、大丈夫よ。ありがとう」
まだ少し呆然としながら視線を巡らせると、ブレードで脳天を断ち割られた怪物男の死体と、恐らく毒霧を浴びたのか血を吐きながら倒れているパイロ男の死体が目に入った。どうやらアダム達はそれぞれ眼前の敵を無事に倒してビアンカの救援に回ってくれたらしい。
対して自分は殆ど何も出来ずに翻弄されて一方的に傷つけられて、あわや殺される所だった。解ってはいた事だが、やはり自分はまだまだ彼等には遠く及ばず、助けられ守られる対象でしかないようだ。ビアンカは自分の無力さに呻吟して溜息をついた。
「私達もそれぞれの相手と戦っている最中にこのテレポート能力で横槍を入れられていたら、正直かなり危機的な状況になっていた可能性もあります。この男を足止めして引き付けて頂いていただけも充分な働きです。ありがとうございました、ミス・ビアンカ」
「……!! リ、リキョウ……」
ビアンカの心を読んだかのようにフォローを入れるリキョウの言葉に、彼女は僅かに目を潤ませる。アダムも同意するように頷いた。
「ああ、それは世辞などではなく紛れもない事実だ。君がこの男を足止めしてくれていたお陰で、俺達は目の前の相手にだけ集中する事が出来たからな。よくやってくれた、ビアンカ」
「アダム……」
暗く沈みかかっていた気持ちが、彼等の真摯な言葉と態度で少しだけ上向いた。お陰で何とか腐らずに済む事ができた。ビアンカは若干潤んでいた目を擦って強引に立ち上がった。身体の傷は痛むものの動けなくなる程ではない。そして自分達にはいつまでもここで休んでいる暇などないのだ。
「ありがとう、2人とも。私ならもう大丈夫だから、先へ進みましょう」
彼女がそう言うと2人ともホッとしたように笑みを浮かべた。どうやら身体の傷だけでなく精神面でも少し心配させてしまったらしい。
「よし、大丈夫なようなら先へ進むか。これで残っている敵は奥の人質がいる場所の連中だけだ。だが勿論油断せずに行くぞ」
アダムの言葉に頷いた一行は、そのまま施設の奥へと進んでいった。
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