Episode12:敵基地突入!

 うす暗い階段の先には大きな鉄の扉があった。今度は落とし戸ではない。横にスライドして開くタイプのドアだ。


「さて、虹鱗の映像からすると、この先には奴等の基地があります。ここから先は何が起きるか解りません。ビアンカ嬢は最初はなるべく我々から離れないようにして下さい。その時・・・が来たら合図しますので、後は作戦通りに行きましょう」


「わ、解ったわ」


 ビアンカは緊張の面持ちで頷く。当初の作戦とはアダムとリキョウが敵と交戦している間に、ビアンカが人質の解放に動くというものだ。ただし敵の規模や能力などが解らない状態で闇雲に動くのは危険である為、リキョウ達がいけると判断した時にその合図を出すという取り決めであった。


「……熱源感知でのスキャンを完了した。どうやら歓迎・・の準備は万端のようだ。この扉の先に広いロビーのような空間があり、そこにライフル銃をこちらに向けて構えた人間が5人、スタンバイしている。それ以外にも柱の陰に隠れて拳銃を構えている人間が2人、更に奥に何も持っていない人間が1人いる。こいつは『超能力者』かも知れんな」


 アダムに掛かればどんな厳重な施設の内部も踏み込む前から丸裸だ。こういう類いの偵察能力はユリシーズにもリキョウにもない為、その力には素直に脱帽するしかない。


「なるほど、人質がいる場所はどうですか?」


「最初のロビーを過ぎた先には無手の人間が何人かいるな。廊下や各部屋に点在している。人質に関しては今の所全員無事のようだ。だが彼等の檻を見張るように6人の人間が側にいる。1人は……女だ。恐らくあのCIAの女だろう」


 リキョウの確認にも淀みなく答えるアダム。やはりマチルダはまだこの施設内にいるようだ。一体何を目的としているのか。本当にダイアンを蹴落とす為だけに宿敵とも言えるロシアのSVRと手を組んでいるのだろうか。



「ふむ……だがこれは……?」


「アダム? 何か気になる事があるの?」


 アダムが少し不可解そうに首を傾げていたので気になって尋ねる。彼はやや自信なさそうにかぶりを振った。



「いや、気になると言えばそうなのかも知れんが……そのマチルダを含めた6人の中に、明らかに子供・・と思われる人間がいる。体格から判断すると恐らく小学生・・・の高学年くらいだ……」



「しょ、小学生ですって……? 人質の見間違いじゃないの?」


 こんな場所に子供がいるとしたら他に考えられない。リキョウも同意するように頷いた。


「そうですね。或いは我等への牽制に使う為に、人質から子供を選んで檻から出したのかも知れません」


 それが妥当な推測だろう。だが実際に感知したアダムは釈然としない顔をしている。


「かも知れんが、それにしては様子が…………。まあいい。ここでこれ以上推測しても意味は無い。その時間もないしな。どのみち行けば分かる事だ。では……準備はいいか?」


「え、ええ。私はいつでもいいわよ」


 ビアンカは両手のグローブと首のチョーカーを確認しながら頷いた。リキョウも身体に巻きつけたままの冥蛇の頭を撫でる。


「私もいつでも。銃を持った敵も多いようですし、いずれにせよ屋内戦であればこの冥蛇が最も力を発揮できますので」


 敵味方ともに準備は万端。ここから先は完全なやるかやられるかだ。




「よし、行くぞ!」


 アダムが合図と共に一気に扉を開け放った!


 ――ほぼ同時に爆音、そして視界が明滅するかのような大量の火花。アダムの言っていたライフル銃を構えていた連中による一斉掃射。誰何すいかもなにもあったものではない。ここに無断で踏み込んだ時点で抹殺対象という訳だ。


 そのままなら大量の銃弾を撃ち込まれて、アダム達はともかくビアンカは確実に蜂の巣になっていただろう。だがその銃弾の雨が到達する前に、彼等と自分達の間に分厚い水の壁・・・が一瞬にして出現した。


「……!」


 水壁は撃ち込まれた弾幕を全て遮って包み込み、無害な鉛の塊に変えてしまう。銃撃したロシア人達が驚く暇もあればこそ……


「回流・流転!!」


 リキョウの叫びに合わせて水壁が意志を持っているかのように動きうねり、そのロビーの中を荒れ狂った。それはまるで水で出来た一匹の恐ろしく巨大な蛇が暴れ回っているかのようであった。


 ライフル銃を持った男達がロシア語で何か叫びながら狂ったように銃を乱射するが、全てその巨大な水蛇に阻まれて、逆に水の身体による強烈な水流と水圧を叩きつけられて薙ぎ倒されていく。


 だが大きな柱の陰に潜伏して待ち構えていた敵は無事のようであった。彼等は水蛇に驚きながらも柱を盾にして水害から逃れつつ、こちらに向けて拳銃を発砲してくる。


「むん!」


 だがそこにアダムが割り込んで、銃弾を自らの腕や身体で受け止める。そしてお返しとばかりに左腕の光線銃から粒子ビームを撃ち込んで、隠れている柱ごとそれらの敵を撃ち抜く。



「さあ、今の内です! このまま奥に進みますよ!」


 とりあえず敵の初撃を凌ぎ切って反撃で一掃した事を確認した一行は、その勢いを駆って施設の奥へと突き進んでいく。とにかく敵に態勢を整える暇を与えず、一気に人質がいるエリアまで到達する事が大事だ。


『貴様ら、何者だ! 大統領府の犬か!?』


 と、それを遮るように男が1人立ち塞がった。銃などで武装していない無手だ。アダムが言っていたロビーの奥にいた『超能力者』かもしれない。


『かあぁぁぁっ!!』


 案の定その男がビアンカ達に向かって唸りながら両手を突き出した。すると奴の身体から目に見えない波動・・のような物が噴出し、それは衝撃波となって逃げ場のない廊下を迫ってくる。廊下の途上に置かれていた物が木端のように吹き飛ぶ。


「……! 冥蛇!」


 リキョウの意志に応えて冥蛇が再び水壁を展開する。衝撃波が水壁に衝突すると、分厚く銃弾の雨も通さないはずの水壁が激しく揺らいで、壁の一部が弾けた。相当な威力だ。リキョウの表情が少し厳しさを帯びた事からもそれが窺える。


 敵の攻撃を防いだ隙にアダムがその男に光線銃を撃ち込む。だがその男は目の前に不可視の『障壁』を張り巡らせているらしく、粒子ビームがその障壁に当たって飛散した。アダムの光線銃の一撃を防ぐとはかなりの強度だ。


 だがその代償に『障壁』が大きく乱れて、衝撃に押されるように男がよろめいた。


「……! ビアンカ!」


「ええ、任せて!」


 男が体勢を崩した事で『障壁』が揺らめいて乱れている。その隙をついてビアンカは思い切って前に踏み込む。案の定超能力の障壁は乱れて一時的に通り抜けられるようになっていた。


「おお……りゃぁぁっ!!」


 少女らしからぬ気合の掛け声と共に跳び上がったビアンカは、上段から落下の勢いも合わせて渾身のストレートを男に顔面に叩き込んだ。アトランタで下仙の男を倒した時と同じ打ち下ろしストレートだ。


 インパクトの瞬間グローブから霊力が噴出して瞬間的に殺人級の威力となったストレートは、その男の顔面を原型を留めないくらいに破壊・・した。


 男が物も言わずにもんどりうって倒れ込む。ほぼ即死だろう。

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