Episode7:ファーストレディ!?

 そしてわざとらしく咳払いして話題を変える。


「おほん! ……それで、名前は解ったけど、あなたは一体何者なの? それにあの化け物達は? 私は何で狙われたの?」


 話題を変える意味もあるが、それは本題でもある。根本的な疑問だ。それが分からなければ何も始まらないし、ユリシーズを信用するかどうかも決められない。勿論彼が本当の事を言っていると仮定しての話になるが、そこまで疑い出したら何も考えられなくなる。


「……今からする話はお前にとっては信じがたい内容だと思うが、そこは俺を信じろとしか言えん」


「あんな化け物に襲われて、あなたの魔法のような力も見たのよ? 今更何を聞いたって驚かないわ」


 ビアンカがそう答えると、ユリシーズは口の端を吊り上げた。


「ふ……それもそうだな。じゃあまず……極めて基本的な質問をするが、今のこの国の大統領が誰かは知ってるな?」


「誰って、そんなの当然でしょう? ウォーカー大統領よ。国民党のね」


 ダイアン・ウォーカー大統領。


 元々国民党の上院議員であり、つい半年ほど前の大統領選挙で相手の自由党の候補に大差を付けて勝利した新進気鋭の、そしてアメリカ初の女性大統領。就任後も「古き良きアメリカを取り戻す」というスローガンの元に掲げた公約を次々と実行しており、現在のところ国民からの支持率はかなり高い。


 ただし自由党の議員党員や支持者、一部の狂信的なリベラル信者からは親の仇のように憎まれているとも聞く。また基本的にリベラル寄りである各種メディアからも良く思われていないようで、揚げ足取りのような報道をされる事もしばしばだ。


 まあ政党や政策の違いなどによって、万人に支持されるという事は不可能なのでその辺りは仕方がない事なのだろう。



 ユリシーズが頷いた。


「そう、そのウォーカー大統領だ。俺の雇い主……というかまあボス・・は、ウォーカー大統領なんだよ」


「……は?」


 ビアンカは大きく目を見開くが、ユリシーズは至って真面目な表情で続ける。


「俺は大統領警護官、つまりはシークレットサービスの一員で、その中でも完全に大統領直属の特殊警護班に所属している」


「ま、待って、ちょっと待って! え……シ、シークレットサービス、ですって? それも大統領直属? それじゃつまり、あなたに私を警護するように命じたのは……?」


「勿論。現合衆国大統領、ダイアン・ウォーカー本人さ」


「っ!!?」


 当然のように頷くユリシーズの姿にビアンカは絶句してしまう。それを見たユリシーズが人の悪そうな笑みを浮かべる。



「おい、何だ。今更何を聞いても驚かないんじゃなかったのか?」


「……ッ! う、うるさいわね! 早く続きを話しなさいよ! 何でこの国の大統領が私なんかの警護を命じるのよ?」


 揶揄されて羞恥に顔を赤くしたビアンカは、それを誤魔化すように話の続きを促す。ユリシーズが肩を竦めた。


「ま、そりゃ当然の疑問だな。驚くのはまだこれからだぞ? お前の両親……コールマン夫妻だが、彼等はお前の本当の両親じゃない。それは知ってたか?」


「……! ええ、まあ……」


 彼女が高校生に上がった時、父からそれとなく伝えられた。ショックがなかったこと言われれば嘘になるが、自分自身何となく察していた事もあって、それ程尾を引かずに受け入れる事が出来た。


「コールマン夫妻が本当の親ではないとすると、当然ながら実の肉親は別にいる事になる。そしてそれこそが、お前のさっきの質問の答えになる訳だがね」


「え……?」


 ビアンカは再び唖然としてしまう。さっきの質問とは何故大統領が自分の警護など寄越すのかという物。その答えが、自分の実の肉親・・・・は別にいるという物。ということはつまり……




「そうだ。アメリカ初の若き女性大統領ダイアン・ウォーカーは……お前の実の母親・・・・なんだよ。お前は本当はファーストレディーだったって訳だ」




「……っ!!!」


 もう今度こそ何を聞いても驚かないと決めたのに、その直後にその決まりを破ってしまった。だが流石にこれは許して欲しいと彼女は思った。


「まあ厳密に言うとファーストドーターって事になるが、大統領自身が女性だし、関係者の間でのみ意味が通じる一種の暗号的な意味合いもあって、俺達・・の間じゃファーストレディって呼び名で定着してる」



(わ、わ……私が……大統領の娘、ですって……!?)


 一体どこの映画かドラマの話だと内心で突っ込みたくなった。しかしユリシーズの顔はやはり全く真剣なままだ。少なくとも彼は嘘を言っていない。


 ビアンカは改めて息を呑んだ。


「俺の話が信じられないか? まあ無理もないが……少なくともカバール・・・・の連中はそう思っていないみたいだな? あんな手の込んだ罠でお前を捕まえようとしくらいだからな」


「……!」


 ユリシーズの言葉に、ビアンカは現実を思い出さされる。そうだ。あのエメリッヒやパーセル達が自分を殺そうとした事は紛れもない事実なのだ。しかも信じがたい事に奴等は人間ではない、悪魔のような化け物であった。


 あんな訳の分からない化け物達に狙われる心当たりがない。……そしてそうなると、ユリシーズの話が信憑性を帯びてくる。


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