第38話  解体場

 解体場には、馬車に載せられていたのとは明らかに違う量の魔物の死体が並べられていた。


 だが、搬入の終わり頃に解体場に入って来たギルドの方々は、一体彼らが何台の馬車で来ていたのかを知らないものだから、多いなとか嘆きの声は聞こえたが、余りにも多いぞと疑問視する声は無かった。


 ユリアが他の職員に魔石については魔法学校の試験に必要だから全てを彼らに渡し、体の全ては素材として買い取る旨を説明していた。フォルクス達を含め、皆で魔石の抜き取りをしていた。ただし、オークの上位種のロードの肉は切り分けてお裾分けにし、フォルクス達の食べる分を別途確保していた。かなり美味しいらしいのだ。ジェネラルのは気持ちだけ受け取るとなり、そのまま売る事になっていた。


 そして目録を作ってくれた。

 素材などで需要のある分であり、買い取って貰う分だ。


 オーク 52

 サイクロプス

 オークロード

 オークジェネラル(以前倒した分をこっそり忍ばせている)


 べソンだけはフォルクスが何をしているのかに気が付いていたが、肩を軽く叩くだけだった。


 全ての素材を売り、1400万ゴールドになった。首都での一般人の年収の14倍程である。

 一番高かったのがジェネラルとサイクロプスで各々600万だった。


 一旦フォルクスがお金を預かり、解体場の係に後を任せ、ユリアとフォルクス達は引き上げた。


 お金を受け取りギルドを後にした。ユリアに聞かれ部屋番号を教えていた。今日は食堂に食べに行くから、皆で一緒に食べたいと言われたのと、ギルドで出来ない打ち合わせをしたいと言われたからだ。


 すっかり忘れていたのは依頼達成についての報国だったが、誰も気が付かづに宿に向かっていた。早々にギルドを引き上げたが、馬車が一台で4人が騎馬だったが、誰も疑問に感じていなかった。唯一人ユリアを除いては。


 宿に戻るとシーラに


「ちょっと何よ。何であの女に泊まっている部屋を教えているのよ」


「ああ、ギルドで出来ない打ち合わせをしたいそうだ。誰が何処で聞き耳を立てているか分からないって言っていたし、試験についてユリアさんは色々知っているからね」


「わ、解ったわよ。またキスをしたら許さないんだから」


「あんなのはキスのうちに入らないさ。ユリアさんも酒の勢いでの事だし、覚えていないだろうしさ」


 シーラだけではなく、何故かカーラ、ラティスの二人もジト目であった。


 ただフォルクスはジト目が痛く、ジト目の理由が分からなかったので、こんな時は逃げの一手だ。


「昨日も二日前も湯船に浸かってないからさ、今日は久々の風呂だからゆっくり浸かってこようぜ。という事でお先に!」


 とダッシュで逃げていった。シーラもラティスもフォルクスを止める事ができなかった。えっ?っと思っているとダッシュで行ってしまったから手が届かなかったのだ。シーラはため息を吐きながら、全くもうとぶつぶつと言っていた。


「仕方がないから私達もお風呂に行くわよ」


 そうして風呂を上がった後、カーラとリズが食堂に注文をしに行っていた。一応先日見たユリアの同僚が来ると想定し、女性用の食べ物も頼んでおく。リズやカーラから言わせると頼み過ぎても足らない位になる。もしもユリアが一人でしか来なかったら、残りはベソンとフォルクスが食べるから問題ないだろうという事で、逆に友達が来た場合少し足りないかな位に思っていたりする。


 店主に聞くと彼女達は常連らしく、少なくとも受付嬢のユリアが来る旨を伝えておいた。来たら部屋に案内させるのと、一緒の席に座る旨を伝えておいた。勿論容姿が目立つ者達なので店主も彼女達がどういった仕事をしているものかを分かっており、頷いてくれた。


 風呂を上がり、皆が集まってお茶タイムにしているとドアがノックされ、フォルクスがドアを開けると神妙な顔をし、深刻そうな雰囲気のユリアがそこにいた。


「ユリアさん、いらっしゃい!一人ですか?」


「うん。この前の子達は下で待っていて、ここには私だけよ」


「とりあえず中に入りませんか?」


 ドアを閉めると何やら魔法を使い出した。ユリアが魔法を唱えたので皆驚いていた。


「我が望む。我らの会話を盗み聞きする者から我らの秘密を守り給え。ヴェール」


 すると遮音結界が張られたのが分かり、ラティスが


「これは上位の遮音結界ですわね。驚きました。私では遮音は中級しかできませんわ」


「あんた一体何者?たかだか一介のギルドの受付風情が遮音の上級を使える筈はないわよね」


 ユリアはヅカヅカとフォルクスの前に寄ってきて体を密着させ上を見る。背丈が違うからだが。


「お嬢さん、あなたの質問には半分答えます。私はエルフでは有りますが、一応貴族の娘で貴女達の先輩に当たります。残り半分はフォル君、貴方の返答次第です」


「どうしたんですか?何かいつもと違いますよね?何か解体場にいた時から様子が少しおかしかったようだけど、大丈夫ですか?」


「私は至って健康よ。フォル君、君って何者?」


「何者?と言っても兵士上がりの単なる冒険者ですよ?確かに人より魔力が有りますが」


「最初に見た時に気が付かないなんて私は駄目ね。フォル君、もう一度聞くけど君は何者?そして貴女達はフォル君が何者かを知っているの?普通の人ではないのはこの前のキスで分かったのよ。確信が無かったからキスで確かめたの。君、魔力がとんでもないでしょ?しかも収納持ちよね?」


「あっ、やっぱり分かっちゃいましたか」


 ユリアは泣きながらフォルクスに抱きついていた


「私の、私の妹を助けて。貴方にお願いするのはお門違いだとは分かっているの。貴方しか縋る事が出来ないの。それと勇者が私の運命の人である筈なの。勇者の力になって手助けをする必要があると予言されていたのだけれども、まさか本当に私の前に勇者が現れるとは思わなかったの。けれどもフォル君が現れた。どうか、どうかお願い。妹を助けて!助けてくれたのならば、私の全てをフォル君に捧げます。文字通り実も心も全てを。どうか、どうかお願いします」


「ちょっと落ち着いてください。支離滅裂ですよ?とりあえず説明しますね。あのですねえ、別に秘密にしてはいないけど、皆があまり言いふらすなて言っていたから黙っていましたが、僕はまず間違いなく異世界からの迷い人なんです。ただ、記憶をなくしているのと、常識感があまりに違うから確信しているんです。妹さんの話は下でしませんか?お友達を待たせているんでしょ?」


「はい、私の勇者様」


「えっと、とりあえずよく分からないから僕の事ら今まで通りに呼んで欲しいんです。余り僕が特別だというのを知られたくないんです。ちなみに妹さんの話は下にいる方は知っているのですか?僕の事も?」


「はい。妹の事は知っていますがフォル君の事は知らないわ。それと私がどうなるのかもまだ言っていないの」


「僕の事は知らないなら後にしましょう」


 頷いたのでとりあえず下に向かうのだった。


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