第33話  シーラのファーストキス

 シーラの御者で馬車が進んで行くが、今日は想定よりもかなり早く進んでいた。


 その為、当初予定していた街を通り越す事にし、本来明日の昼前に通る分岐路にて街道から外れるのだが、今日は分岐路を少し過ぎてしまうが、分岐路付近の小さな町で宿を取る事にした。


 明日の昼頃に通る予定だった場所を今日は無理をしてなんとか通過した。それは今日は少し頑張って動いていた為、暗くなり掛けた頃に街に着いたからだ。そこは寂れた宿場町であった。宿は!あるのはあるのだが、大した宿ではなかった。一応一番良い部屋を取りたいと思い、空いている中では一番良い部屋に泊まる事にした。


 馬の世話は宿の方にお金を払ってお願いし、一旦部屋に行き荷物などを置いて落ち着く事にした。


 少し休んでから、まずは風呂に行く事になった。その間に食事を作って貰うのだ。流石にいきなり来てすぐ食事というのは調理の都合時間が掛かるからだ。


 受付時に人数文のお金を払い、食事を作って貰う時に一時間半位時間を頂ければと作れると言われ、先に湯浴みをされてはと言われた為だ。


 そう、風呂に入りに行くといっても湯船が無いのだ。洗い場ではお湯は何とか出るので、体を洗ってお湯で体を奇麗にする湯浴み位しかできない宿だった。


 だが、それでもクリーンではなく、お湯を掛けて体を洗い流すというのは良いものである。湯船に浸かる事ができない為に早々に切り上げ、部屋に戻り打ち合わせや反省会を開いていた。


 食事が出来上がった頃、食堂に行く。今回は部屋を三つ取っていた。小さな部屋が三つしか空きが無かったからだ。部屋割りをどうしようかとなったが、べソンとリズは同じ部屋で寝ると言って、早々に部屋に入ってしまったから困ったのだ。本来だとべソンとフォルクスが同室にすべきだが、べソンとリズは周りの事を冷静に判断できないクライのぼせていて、最後までできないが、ラブラブに過ごすはずだと誰もが予測するのは容易な事だった。


 誰がフォルクスと一緒に寝るのか?になった。結局はこの手の時にローテーションをする事になり、初日は誰がするのかをフォルクスが作ったくじ引きをじゃんけんで勝った者から引いていったが、皮肉にも初日はじゃんけんで負けたシーラになった。


 部屋はトイレも風呂も当然ないただの小さな部屋だった。一応小さな机と椅子が置いてあり、小さなシングルベッドが二つ離れて置いてあった。


 とにかくフォルクスは疲れていた。気が張っていたのもあるのだろうが、何故か、かなり疲れていた。少し話をしていたが、フォルクスはちょっと疲れているから先に横にならさせてもらうよと言い、早々に横になった。


 疲れてはいるが中々寝付けれなかった。とはいえ、横になっているだけでも大分と楽だったのではある。暫く考えに耽っていると、シーラがもぞもぞ動いているような気配がした。気配がしたかと思うと、フォルクスの布団に入ってきて背中にピタッと寄り添ってきたのだ。フォルクスはえっ?と思ったがシーラは既にフォルクスが寝ていると思ったようで


「先に寝ちゃったんだよね。おばかさん。私って素直になれないのよね。貴方には感謝しているのよ。もしも素直に貴方に向かって好きだと言えればいいのに」


 そのシーラの呟きを聞いていたフォルクスの心臓はバクバクしてきた。フォルクス自身は口から心臓が飛び出してくるんじゃないかと思う位にドキドキしてきたのだ。シーラが自分の事を好きだと言ってくれたのだ。面と向かって言って来ない所は シーラらしい所ではあるが、てっきり嫌われているものだと思っていたのだ。所が好きだというのだ。そしてフォルクスの心臓の鼓動が早くなっている事にシーラが気付き、あれっ?っとなった。


「ど、どどどど、どうしよう?聞かれちゃったのかな?ねえ、ねえ、あんた起きてるの?」


 フォルクスは寝てるよと言ってしまった。シーラは真っ赤になり


「い、今のを聞いてたの?」


 と言うのでフォルクスがシーラに向き合った。


「駄目、こっちを見ちゃ駄目」


 なぜか裸だった。


「ど、どどど、どうして裸なの?」


「私って家では裸で寝てたの。つい居心地が良かったし、あんたが先に寝たはずだと思ったから、普段のようにしちゃったのよ。あっ!その、恥ずかしいから見ないで」


 フォルクスは初めて見る女性の裸に真っ赤になった。勿論胸も初めて見た。慌てて背中を向けて


「ばか、早く服着ろよ」


「分かったからこっちを見ないでよ」


 そうして元々寝ていたベッドに戻り服を着ていた。


 シーラはクネクネしながら


「やっぱり見たよね?」


「うん。小振りだけど綺麗な胸だね」


 フォルクスは一応言葉に気を付けた。胸が小さいとはっきり言うと傷付くから小振りだという言葉に切り替えたのだ。そして綺麗だとも言っておく。確かに綺麗な形をしていたのだ。このまま大きくなれば凄いだろうなとは思う位に。


 そして「馬鹿!」といい、手を振りかざした。フォルクスは思わず歯を食いしばり目を瞑った。


 そしてシーラの手がフォルクスの頬に優しく当たる。そして両手でフォルクスの頬を掴み、ぐいっと引っ張り、自らの唇にフォルクスの唇を押し当てた。


 フォルクスは目を見開き唖然としていた。 


 フォルクスの頭に「ピラリラリン」と言う有名なゲームの効果音と思われる音が鳴り響いて、えっ?と思ったが、それ以上に今自分に起こった事にドキドキしっぱなしだった。シーラからのファーストキスを突然されたのだ。しかも好きな美少女の側からだ。これでファーストキスをされたのは2人目だ。


 するとシーラがいう。


「今のが私のファーストキスなんだからね。どうせさっきのも聞いていたんでしょ?そうよ、わ、私、あなたの事が好きなんだから。だ、だから貴方がしたいなら、む、胸位触らせてあげるわよ」


 そう言ってくるのでフォルクスは何も言わず、ただただぎゅっと彼女を抱きしめるだけであった。


 フォルクスはシーラをぎゅっと抱きしめながら横になり、シーラの頭をさすりながらやがて眠りに落ちるのであった。しっかり胸に手を添えて。

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