第32話  初日の終わり

 べソンとリズはお互いを尊敬し合っていた。今朝もそうだが早朝に宿の近くの空き地で組手をしていたりと、冒険者としても切磋琢磨する仲にもなっていた。シーラはそんな2人を羨ましく見ていた。


 フォルクスは本人が望む望まないにも関わらず、周りに女性が寄ってきている。ラティスもそうだが、自分の仲間であるカーラもフォルクスが好きだと既に伝えていた。確か好きというより、運命の人だと。あの精霊から伝えられ、カーラ自体もそうだと認識し、更に惚れたと言っていた。


 だがべソンの場合は違う。リズにぞっこんで、他の女性に目を向ける事すらない。ラティス達にもそうだ。仲間を見る目であっても女性を見る目ではないのだ。



 勿論女性に接する時はちゃんと女性に対する配慮もあり、余計に区別をつけている。


 席に座る時もそうだ。ラティスやカーラ、シーラの隣には座ろうとはしない。間にフォルクスを挟む等、リズに対する配慮が徹底しているのだ。そんな配慮をするべソンが恋人になったリズが羨ましかった。一途にリズの事だけを見ており、リズもべソンの事だけを想っている。


 まだ会ってから間もないが、自分より強い男にしか靡かないと以前から豪語していた。勿論あまりにも歳の離れた者は対象外で、同年代という条件が付いてはいた。


 例えば40歳台の騎士団長辺りであれば、おそらくリズよりも腕が強く、簡単にねじ伏せるだろう。そういう歳の離れた者には興味がなかった。そんな感じで、自分より強い者に靡くというその強い者の中には年齢的な制限も有ったのである。そんな中同年代であり、しかも2歳しか歳上でしかないべソンに力負けしたのだ。己よりも強いと、それも精神的にも強いというのが直感で分かり、戦う前からべソンの方が強いと感じていたのだ。


 その為に、最初の力合わせだけで魂自体がべソンの方が強いのだと認め、以前から豪語していた通りにべソンに惚れていた。シーラはフォルクスからあんな風に一途に愛される事はないのだろうとは思うが、好きになってしまった。冗談を言い合ってはいるが、フォルクスとの距離はまだまだあるから凹んでいたのだ。


 シーラはカーラと一緒にいるいた時にだが、ふとべソンとリズがキスをしているのを見てしまい、真っ赤になっていた。またその時にべソンがリズの胸を揉みしだいているのをカーラと一緒に見てしまったのだ。当人達は気付いてはいなかったようだが、2人はそれを見て二人の関係に更に真っ赤になっていた。


 おそらくあの首輪が無ければ、リズは初体験を済ましているのであろうと思う位に一気にお互いを好き合っているというのが分かっていた。私も負けないもんとシーラは思っていた。そんな自分が不思議で仕方がなかった。


 なんとなく分かってはいる。自分より魔力が強いフォルクスが凄い者なのだとシーラは一次試験の時に素直に思ったのだ。そしてほぼ無条件で自分を助けてくれた白馬に乗った王子様であり、完全にヒーローなのだ。

 ただ、シーラの性格から憎まれ口をついつい叩いてしまう。自分がツンデレだというのはよくよく分かっているのだが、つい売り言葉に買い言葉で色々な事を言ってしまう。


 今日もそうだ。御者等のローテーションの時にピシャッと言ってしまったのだ。お呼びでないと。カーラに慰められていたようだが、あれは言い過ぎたなと反省していたりする。やっぱり嫌われちゃったかなと思い悩んでいた。フォルクスが自分をいじってくるのは自分のことが嫌いだからいじめてくるのだろうと思い込んでいたのだ。フォルクスが自分の事を本当は好いているとは少なく共今のところ分かっていなかった。嫌われているのだと思い込んでいたのだ。自分は男なんて女の体をいやらしく求め、辱めるだけの獣だと思っていたのだ。


 そう、フォルクスが自分達に対して何の見返りを求める事もなく、ただ救いの手を差し伸べてくれる前まではだ。勿論取って付けたような条件を付けた事にする為だけの条件は有った。何かを教えてくれたというような、しかも常識や文字の読み書き、そういったような、言われなくても仲間にしてあげるような内容を敢えて条件として提案を行ってくれる辺り、やはり紳士なのだと思い知らされたのであった。


シーラはカーラと御者をしている時にフォルクスの事で思い悩んでいた。カーラとラティスと違い、女として相手にされていないのではないのかと。先程からラティスのフォルクスを見る目が完全に恋する乙女なのだ。


ラティスとフォルクスが御者をしている間に何が有ったのだろう?とふと思っていた。どう見ても一気に距離が縮んだのではないか?若しくは一方的にラティスがフォルクスを好いている、いや、惚れ込んだ、そんな目付きにしか見えないのだ。


なんだかんだと言ってもラティスに限って言えば、自分達の仲間になったのが今日で2日目なのだ。どうしてこんなたったの2日であれ程好きになっているのだろう?と思わなくはないのだが、やはりフォルクスが初夜権を大した条件もなく買い取り、救った事だろうかと。確かに惚れるには十分な理由だとは思うのだが、それだけではないのだろうとは思った。但し、ラティスに限って言えば、早ければ今日誰かに犯され、汚されてしまったかもなのだ。フォルクスに例え初夜権を使われたとしても、惚れた相手であるから、問題が無い。問題が有るとすれば、他の男共が見ている前で性交をしなければならない事だろうか。


シーラも自らがそうなる事も考えざるを得ないが、フォルクスになら、全てを捧げても良いと思うのだが、やはり、そう言うことは二人きりで、甘いひと時を、ロマンチックに過ごしたい願望がある。


そういえば精霊の力があるというような事を聞いたなと思い、自分には無いその精霊の力が羨ましかった。ただ彼女曰く、現状では何故か4属性目の者が揃わないと言う。


火の属性が揃わないのだと。フォルクスは風、カーラは水、そしてラティスは土なのだ。何故か火の属性の精霊の加護を持っている者が存在している気配がしないと言う。


ただカーラがある程度水の精霊と会話ができていると言うが、その中で4属性の精霊がこうして加護を誰かに授けるというのは、4属性揃う事になるのだというのだ。


シーラはそれはそれで思い悩む。新たに現れる火属性の者は賭けても良いがまずもって女性、それも見目麗しいのだと。そう、またぞやフォルクスの周りに女性が増えるのかなと。それとユリアと言ったか、あの受付のお姉さんは確か年上にしか興味がないと言っていたが、どう見ても年下のフォルクスを弟分以上の存在として見ているとしか思えなかった。


私もあのように綺麗になれるかなと思う。悔しいが女から見ても綺麗な人なのだ。スタイルもよい。それにフォルクスもデレデレだったような気がして無性に腹が立ってきた。


そしてついついフォルクスのバカと叫んでいたりする。そしてハッとなる。客室と御者席の間には一応小窓が付いている。そこから慌てたフォルクスが


「どうした?何か有ったのか?」


そう聞いてきたので慌てて


「な、何でもないわよ。さっきの事が恥ずかしかったから、アンタの事を馬鹿って言っただけなんだから。何でもないんだから気にしないでよ」


ガチャっと小窓を閉めていた。フォルクスは首をかしげていた。変なやつだねえという言うとラティスが、ふふふとしか笑わなかった。

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