4.おかえりなさいませ、トール・ヴァイス・ジューツ伯爵令息
「お帰りなさいませ、トール・ヴァイス・ジューツ伯爵令息」
「ねえ、『僕』のこれ、どういうことなのかしら?」
リタの前にいる人物は果たしてサキなのであろうか? スラリと長い体躯からは溢れ出る筋肉感。着ている服にも筋肉の筋が見えるかのようだった。胸板も女性らしからぬ膨らみ方をしていた。
女性として生を受けるはずだったサキは、男として新しい人生を送ったのだ。
「想定外がいくつもあったのです。実際にお会いして話したとおりです」
「ええ、知っている。その上で尋ねているの。結局、何が起きていたの?」
「サキ様の転生に邪魔が入ってしまいました。そのままでは転生もできず、かと言って戻すことができなかったため、やむなく男性として転生させました」
「それは聞いた。僕が聞きたいのは――ああ、『僕』って響きが心地よすぎてつい使ってしまうじゃない! 聞きたいのは、どうして邪魔が入って、僕が知らないところでは何があったのかってこと。僕のところで何があったのかは知っているでしょう?」
「私、いいえ、私達は別の管理者に狙われてしまっているようです。すみません、どの管理者が狙ってきているのかは全く見定められておりませんでして」
リタが頭を下げるのはおかしかった。邪魔をしてきているやつが悪いのだ。
サキも頭に血が上りそうになる。脳裏に浮かぶのはアイリス嬢だった。どっかしらの令嬢らしかったが、なにかにつけて『トールの邪魔をしてきた』。国の権力のバランスを崩すためある貴族に力をつけさせれば、どういうわけだか別の貴族が力をつけるし、混乱を求めて裏稼業の集団を組織すればいつの間にか瓦解してしまった。直接は手を下していないのは知っているが、どこにもアイリス嬢の姿が見え隠れしていて。
終いには闇夜で伯爵令息を暗殺する本人として登場。
考えれば、あの女がリタの言う別の管理者からの差金だったのかもしれない。
「僕こそ、本当はあっちでいろいろ調べておきたかったのだけれど。さすがに脈絡もなくナイフで一突きされるとは思っていなかったから」
もっと時間があれば、サキにも何か分かったかもしれない。たった十七年、実質十年ちょっとの時間は異変に対応するための時間としては短すぎた。
「とにかく、リタも僕も、少し冷静になろう。邪魔が今回だけとは限らないわけだから」
サキはリタの手を取ってソファーへ導く。リタを先に座らせてから、しかし当人は腰を下ろさずリタと正対する。
「作戦会議といきましょう」
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