第20話 ☆
彼女とはよく遊ぶようになった。
彼女は他にも友達がいるはずなのに、あたしに構ってくる。でも、それがなんだか特別な感じがしてちょっと誇らしくなる。
そして、夏休みがやってくる。
去年は楽しみにしていた。学校が休みになり、授業をしなくても済むし、その分いっぱい遊べるだろうと。
でも、実際はとても暇で退屈で辛いものだった。
ママと遊園地や水族館それから、お祭りにも行って楽しかったけど、何もない時間の方が多過ぎてあまり好きになれなかった。
夏休みが終わって、周りの人達とまた距離が空いてしまう感じも嫌だった。
今年もママは色々なところに連れて行ってくれると言ってくれたから、楽しみにしているけど、他の時間に何をしようかと頭を悩ませる。
ふとよぎる。あの娘の顔が。お姫様のような少女
。
彼女は夏休みになっても遊びに来てくれるだろうか。約束はしていないし、別に会いたいとも思ってないけれど、彼女が来てくれればきっと退屈はしないだろうなと思う。
やることもないし、宿題でも進めていようかなと思いワークを机に並べたところで。
ピンポーン
家のチャイムが鳴る。
誰だろう、ママからは知らない人が来たら絶対に開けちゃダメと言われている。
居間のドアホンで相手を確認する。
そこには、真っ直ぐで艶やかな黒髪を肩口までで切り揃えている、お姫様のような少女。
そう、あの娘が立っていた。
あたしはすぐに玄関の鍵を開ける。
「なんのよう」
「遊ぼうとおもって。今日用事ある?」
「あるわよ。」
本当は無いけれど、前を張ってしまう。
どうしてだろう、他の子の前ではもう少し素直になれるのに。彼女の前では前を張ってしまう。
宿題をやろうとしていたから、あながち嘘ではないと思うけど。
「そうなんだ。じゃあ、また今度遊ぼう。」
そう言って彼女は背中を向ける。
「まって」
あたしはつい呼び止めてしまった。別に用事があるわけじゃないし、呼び止める必要なんて無かったから、その後に続く言葉が出ない。
「うん。」
彼女は立ち止まり、あたしの方を向く。
当然だ、あたしが呼び止めたのだから。でも、彼女と目が合うと顔が沸騰したかのように熱くなり、思考がまとまらなくなる。
「ちょっとだけなら、遊べるけど。」
結局あたしは耐えきれずに、彼女と遊ぶという決断をした。
彼女の後ろ姿がかわいそうだったから仕方がないのだ。あたしは強くてカッコ良くて優しい王子様に憧れていて、王子様はかわいそうな人を決して見放したりはしないはずだから。
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