第21話
今週の部活動は土曜日の午前中、つまり今日の午前中で最後だ。午後は時間が開くわけだが、今日の予定は決まっている。
萌香への誕生日プレゼントを買う。
とはいえ、何を選べば萌香が喜ぶのが全く分からないので、近場でなんでも揃っているショッピングモールへと自転車で向かう。
中学の入学祝いに買ってもらったママチャリは、チェーンが錆び外れやすくなっているため外れたときに直せるように手袋をいつもバッグの中に忍ばせている。
素手でも治せるが、手を洗えない場合が多いので、やはりあると助かる。
チェーンが外れないように慎重に走るが、20分ほどでショッピングモールへと到着する。
とはいえ、萌香が喜ぶものなんて当てがない。小学生の時はぬいぐるみやお人形が好きだったが、今でもそうとは限らないし、なんだか子ども扱いしてるようで気が引ける。
やっぱり女性らしくアクセサリーとかがいいんだろうかと思い、雑貨屋へ向かうことにする。
雑貨屋には、可愛らしい文房具もあれば、アクセサリーや、健康グッズや食器など多様な商品が所狭しと並べてある。
最初は受験生だし文房具なんかいいんじゃないかと思ったが、一通り必要なものは揃っているだろうし、邪魔だと思われるのも嫌だったので辞めた。
色々な商品を見ているうちに、プレゼントにゲシュタルト崩壊を起こし、近くの本屋で頭を冷やすことにした。
気になっていた新刊のあらすじを読んでいると丁度良い気分転換になる。
もともと、小説を読み始めたのも気分転換の為ということもあり、行き詰まったり悩んだらした時に、本を読んで気分転換したり現実逃避することはよくある。
「おーい、田所〜」
気になる作家のコーナーで本を物色していると私の名前が呼ばれたような気がする。
でも、こんなところで声をかけてくるような友達もいないし。と考え、先ほどの声は別の田所さんを呼んでいるんだろうなと無視することに決めだ。
「無視すんなよ。」
声をかけてきた人物が私の方に手を置く。
どうやら私に話しかけていたようだ。振り向くと、そこには
栞は去年迄、萌香と満と同じクラスで仲良くしていたらしいが、今年はクラスが分かれてしまったけど、昼休みなんかにうちのクラスに来て駄弁ってたりする。小学生の頃は黒髪の癖っ毛だったけど、今は髪を染めてアイロンを当てているのか、少し明るいストレートヘアーが背中にかかっている。
私とはあまり面識はなかったはずだけど、どうして声をかけてきたんだろうか。なんてことを思っていると、栞は「よっ」と手を上げる。
「よっ」
なんとなく同じように返してしまう。
「あはは、ぎこちないなー。
私とまつりんの仲じゃないか。」
さっきまで苗字で呼んでいたのに、そんなことなかったかのように馴れ馴れしく接してくる。距離感を計りづらい。
「そう、それで何か用?」
「いやー、用とかは無いんだけどさ、同じ読書仲間として友好を深めておこうかなと。」
読書仲間?とはてなマークを浮かべていると、栞が持っている買い物籠の中身に目がいく。そこには、漫画やライトノベルそれに青春小説なんかが合わせて10冊くらい積まれていた。
読書仲間というのは本当らしい。
「栞って、本読むんだ。」
「酷いな、同じ図書委員会の仲間でしょ。」
「そうだったんだ。ごめん、気が付かなかった。」
「まつりんって結構ドライだよね。
興味ないことには、とことん興味ない感じ。
でも、すっごいショックだなー。」
彼女はわざとらしく大袈裟にいうと、頭を抱えいかにもショックを受けていますと言わんばかりのジェスチャーまで披露してくる。
「ご、ごめん。」
どう対応すればいいのか判らず取り敢えず謝ると、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
「じゃあ、今日は私と買い物に付き合って。
そしたら、許してあげる。」
私は、萌香の誕生日プレゼントを買うために来たのだから、そんな余裕はないし、断ろうと思ったが、萌香と仲の良い栞からなら何かいいヒントが貰えるかもしれないと思い直す。
「まあ、少しならいいよ。」
「よし決まり。じゃあ、精算してくるからまってて」
そうして、買った本をコインロッカーに預けると、私と栞という違和感のある二人組で買い物に向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます