第18話 ☆
翌日、あの子は約束通り私の家にやってきた。
「ねぇ、どこに行くの?」
「田んぼ」
田んぼ?田んぼといえば、お米になる稲を育てるところだけれど、農業の手伝いでもするのだろうか。
「ついた。」
案内された場所は正真正銘田んぼだった。
私がぽかんとしていると彼女は近くの林に入り、長めの木の枝を二本持ってくる。
「これで釣りしよう。」
「え、木の枝で?田んぼで?」
色々疑問はあるが、何より魚なんて触りたくたい。
「大丈夫、この木の枝に糸をつけてスルメイカをつければ、完成。」
じゃーんといって差し出してきたのはおもちゃのような釣竿だだった。
本当にこれで釣れるのだろうか。
「釣りのおままごとするの?」
「違うよ、本当に釣れるから。
でも、おままごとって結構大人な遊びなんだね。」
彼女は口元を押さえ、顔を赤らめながらいう。
その仕草は、
と、感心している場合ではない。
本来ならおままごとでキスなんてするはずがない。あたしがはずみでしてしまっただけだ。
どうにかごまかさねばならないと思い、「他の人には内緒にして」と忠告をしておいた。
言ったら絶交だからと念押しをしておいたので大丈夫だと思う。
彼女は少し残念そうにしていたが、釣りを始めるとそんなこと忘れてしまったかのように夢中になる。
位置を変えたり、ぴょこぴょこと竿を揺らしたり。本当に釣れるのだろうか。と、思っていると彼女の竿についた糸がピンと張る。
「きた!」
彼女はサッと竿を引き上げる。
すると、糸先には大きなザリガニがついていた。
「ほら、釣れたでしょ。」
彼女は自慢げにザリガニを掲げる。
「いやあああああ」
私はあまりの気持ち悪さに叫んでしまった。
足や尻尾がうねうねと蠢いている様は、あたしにとってホラーでしかなかった。
「それ近づけないで。」
「なんで?かっこいいのに。」
「かっこよくない!気持ち悪い!」
「気持ち悪くないよ、かっこいい!」
ザリガニは腕の挟みを開いたり閉じたりしている。あれに挟まれたらひとたまりもないだろう。まるで魔物のようだ。
いや、あれが魔物だというなら、王子様を目指すためにあれくらいの小さな魔物にビビっていたらお姫様を助けることなんて出来るはずがない。
あたしは勇気を振り絞り魔物を倒すために竿を振り上げる。
「魔物め覚悟しろー。」
「わーちょっと危ないよ。勇者ごっこ?」
あたしは魔物を倒すために彼女に木の枝を振り付ける。
「お姫様、今助けるからそこを動かないで。」
「動かないと私ごと倒されちゃうよー」
「あ、そうか」
「あはは、君面白いね。」
「あたしは面白くない。」
むくれていると彼女は「じゃあ別の遊びしよう。」とザリガニを逃し、木の枝から糸を外し木の枝を捨てるとスルメを食べながら歩き出す。
「君も食べる?」
「いらない。というか手を洗わないと駄目だよ。」
「えー、けち。おかーさんみたい。」
「あなたはこどもみたいね。」
「子供だもん。」
ニシシと笑う。
子供であることを誇らしげにいうなんてなんかずるい。
大人はみんな、もう子供じゃないんだからとか、早く大人になりたかったらとか、子供であることを悪い事のように言う。
でも、彼女は誇らしげだ。子供であることを武器にして戦っている。ずるいと思いながらも羨ましいと思ってしまった。
次に彼女が向かったのは、近所の森だった。
夏は蜂が出るからと近づかないようにしていたのだが、ずがずかと中に踏み入っていく。
「ねぇ、危ないよ。」
「大丈夫。大丈夫。いつも来てるから。」
もう夕方と言うこともあって、森の中は薄暗く、あたしは怖くなってきた。でも、怖いなんていうとなんだか負けた気分になるので絶対に言わないけど。
「いたっ!」
突然大きな声を出したからびっくりして声が出そうになるが、なんとか堪える。
「何がいたの?」
周りを見渡すが、見渡せる範囲には何もいないように思う。
すると、彼女は木を指差し「あそこ」と言う。
指差されたところを見ると、そこには大きなカブトムシがついていて、彼女はそれを手で掴みあたしの方に向かってくる。
「いやああああああああ」
もう絶対に絶交してやるとあたしは誓うのであった。
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