第16話
学校は二学期に入り、部活動も新体制でスタートを切る。
しかし、それは悪夢の始まりでもあった。
異変に気づいたのは部活動の時だった。
先輩達が妙によそよそしいと思っていると、後ろからボールが飛んできて私にぶつかる。
部活中のことだしよくある事なのだが、いつもなら謝罪の言葉が飛んでくる筈なのだが、気がつかなかっただけかと思い気にせずにいたが、練習に集中していると、またボールがぶつかる。
すると今度は何処かから笑い声が聞こえる。
私は何者かの悪意に晒されていた。怒りの気持ちが沸いてきたが、それもだんだん恐怖に支配されていく。
私は何も反抗の意思を示すことが出来なかった。
それからは、先輩だけではなく同級生からもよそよそしい態度を取られることが増えた。
そんな中でも変わらずに接してくれた一部の友達が、原因がある噂にあることを教えてくれた。
田所茉莉はビッチだ
何の根拠もないただの噂。何故みんなこんな噂を信じるのか、そもそもなぜこんな噂が流れたのか分からないことだらけだった。
そして、同じテニス部の友達の
「テニス部の2年生の
私これから抗議してくるね。茉莉は何もしてないのにこんなことするなんて酷いよ。」
「ううん。私が1人で行くよ。
奏でにまで迷惑かけたくない。教えてくれてありがとう。」
一条先輩、部活での練習態度は良くないがもともと運動神経が良いだけあってテニスは上手い。
三上先輩によく懐いていて、仲良くしている私を敵視することも度々あった。
そして、私は一条先輩を空き教室へ呼び出すと一条先輩を問い詰める。
「どうしてこんな根も葉もない噂をばら撒くんですか。」
「はぁ!?何言ってるか分からないし。
てか、後輩のくせに先輩呼び出すとか生意気じゃん。」
「それは、すいません。」
気迫に押されて謝ってしまう。
これじゃあ駄目だとは分かっているが怖くて言葉が出せない。
「だいたいさぁ、あんた三上先輩にも気に入られようとして媚びうったりうざいのよ。
その癖、告白断るとか信じらんない。」
「なんで、そのこと知ってるんですか……。」
私は告白されたことを誰にも言ってない。
三上先輩が言ったんだろうか。
「そんなことどうでもいいでしょ。
三上先輩を傷付けておいて楽しそうにしてるんだから、どうせ他の人にもちょっかいだしてるんでしょ。ほんと性格悪い。」
何を言ってるんだろうこの人は。
一条先輩が何を言ってるのか理解できなくて、頭の中で一条先輩の言葉がなんども巡る。
「黙り込んじゃって、図星なんでしょこのビッチが。もう二度と三上先輩の前に顔を見せるな。」
一条先輩は言い切ると教室を出て行った。
ガシャン
教室のドアが閉まる音を聞きながら、私はただその場に立ち尽くしていた。
外から聞こえてくる運動部の掛け声がやけに耳障りに聞こえた。
音はだんだん大きくなっていく。バットがボールを打つ音、サッカーボールを蹴る音、体育館のバスケットボールの音まで聞こえて来る。
そして、テニスボールを打つパコンパコンという音。
耐えられなくなって耳を塞ぎ目を瞑ると、真っ暗闇の中で音が段々小さくなってくる。
その中に小さく声が混じる。
「たまちゃん」
聞き馴染んだ声だ。温かくて優しい音に落ち着きを取り戻していく。
そして、パコンパコンとなっていた音は段々一定のリズムを刻み、チクタクという時計の音に変わり始める。
意識が覚醒していく。
ここはどこだっけ。
そして、全てを思い出し目が覚める。
私は眠気に耐えきれず保健室で寝ていたのだ。
「たまちゃん、おはよう。」
そこには、太陽のような優しくて温かい笑みを浮かべた萌香がいた。
「おはよう。」
「っ!?」
萌香が口元を押さえ顔を赤らめる。
どうしたのだろう。
「あ、う、うなされてたみたいだけど、大丈夫?」
萌香の方が大丈夫だろうか。先程から様子が変だ。
「うん、大丈夫だよ。なんかね、萌香が声かけてくれてすごく安心した。ありがとう。」
「そっかぁ、よかった。」
「あ、今何時?萌香授業は!?」
「午後1時だよ。もうお昼休み、これに懲りたらもう夜更かしなんてしないでよ。」
「はい、すいません。」
「ぐぅ〜〜」
私のお腹が鳴る。
「あ、給食終わってる。」
私が絶望に打ちひしがれていると、萌香はふふふと笑い出し「これあげる。」とコッペパンを差し出してくる。
「お腹すくだろうとおもって、先生にお願いしてたまちゃんの分確保しておいたの。
でも、こんなたまちゃん見るの久しぶりかも。」
「なにからなにまで本当にありがとう。」
「どういたしまして。」と言いながらもずっと笑ってる。笑いすぎじゃないだろうかと思うが、萌香に笑われるのは不思議と心地良い。
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