第12話 ☆

お姫様と遊ぶ約束をした翌日。


約束通りに、公園にやってきたお姫様は水色のフリル付きのワンピースを着ていて、あたしは不思議な国のアリスを連想した。


きっと、彼女が道に迷おうものなら、道行く人々は皆親切に彼女の力になってくれるのだろう。


「何して遊ぶの?」


「……おままごと」


どうせ子供っぽいと笑われると思っていると、彼女は、そっか、いいよ。と、肯定してくれた。


「じゃあ、あたしは王子様役であなたはお姫様やくね。」


「なんのお話なの?」


私は白雪姫をイメージしていたが、素直に口にするのは恥ずかしく、「おままごとなんだから自由でいいの」と無茶振りをしてしまう。


「でも、それなら君がお姫様役の方がいいんじゃない?可愛いし。」


まさか、可愛いだなんて言われると思わなくて、恥ずかしくなってしまう。


「いいの、あなたがお姫様役。」


彼女は渋々といった感じで了承してくれた。


私は、白雪姫をイメージしていたので、魔女役も演じる。


「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」


「君、王子様役じゃなかった?」


「もうっ、2人じゃあ全然役が足らないでしょう。

だから、あたしが魔女役もやってあげてるの。」


「そうか、じゃあ。

この世で一番美しいのはあなたです魔女様。」


お姫様はうたうように軽やかに言う。


「それじゃあ、物語が進まないじゃない。」


「えー、だって本当のことなのに。」


あたしの顔から火が出るんじゃないかと思うほど暑くなる。


「おままごとは嘘をついてもいいんだから。」


「分かったよ。

世界で一番美しいのは、お姫様です。」


それからなんだかんだと物語は進んで行く。


そして。お姫様は毒林檎を食べてしまい、眠りにつくことになる。


そこへ、王子様であるあたしがキスをして目覚めさせるのだ。


お姫様は、目を瞑りお腹の上で手を組んで仰向けに寝そべっている。


あたしは、お姫様の口元に顔を近づける。


こうしてみると、本当に綺麗だ。

長い睫毛に、ピンク色の柔らかそうな唇。


あたしは吸い込まれるように近づいていき、そのままキスをする。


お姫様は目を覚ます。


あたしも目を覚ます。


今何をした?キス?だれに?お姫様に?


頭の中がこんがらがり、考えがまとまらない。


その間に、お姫様が問い掛けてくる。


「私を目覚めさせたのはあなた?」


「そ、そう。そうです。」


「王子様、私を目覚ましてくれてありがとうございます。

私と結婚してください。」


お姫様は、何もなかったかのようにおままごとを続行する。


「よろこんで。」


あたしも必死におままごとを続ける。


そして、もう一度。


お姫様の唇に顔を近づける。


お姫様は何をされるのか理解したように目を瞑る。


心臓が破裂しそうなくらいばくばくとなるっている。


そして、2度目のキスを交わす。


1度目は、一瞬だったから判らなかったお姫様の柔らかい唇の感触が伝わる。


「んっ……」


お姫様の口から声が漏れる。


あたしは急にいけないことをしていると自覚して顔を離す。


お姫様は、顔をとろんと蕩けさせると「愛しています。」と囁いてくる。


あたしは今までのことがとてつもなく恥ずかしくなる。


「もう、おままごとは終わり。

別の遊びをしましょう。」


「えー、折角盛り上がってきたのに。

あっ、でももう5時だから帰らないと。

次はお外で遊ぼうね。」


「う、うん。またね。」


あたしは、まだ混乱していて反射的に答えてしまった。


「じゃあ、明日も公園集合ね。」


お姫様は言いながら帰る準備を始めてる。


「あっ……」


あたしは気まずくて、早く帰って欲しい気持ちと、お姫様の気持ちが知りたい感情で揺れ動いていた。


「分かってるよ。明日も2人で遊ぼう。」


分かってない。と思いながらも、反論することもなく「またね」と返す。


お姫様が帰ってからも唇には先程のキスの感触が生々しく残っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る