第9話
始業式の翌日から部活動は本格的に始まる。
私の所属するソフトテニス部も例外ではない。
朝練はランニングから始まる。
4月とはいえ朝はまだ冷える。
肺に入り込んでくる冷たく乾いた酸素を、勢いよく吐き出す。そしてまた冷たく乾いた酸素を取り込む。その繰り返し。
無心になれるこの時間を私は気に入っている。
しかし、そんな私服の時を横から入ってくる声に邪魔される。
「
隣で走りながらも息も切らさず話しかけてくるのは、3年3組の
「聞いてるって、もうその話3回目だろ」
「だって〜、ショックなんだもん。
茉莉は私と離れても寂しくないんだね。
この薄情者〜」
「別に、奏とは部活でほぼ毎日顔あわせてるだろ。」
「茉莉さん冷た〜い。そんなんじゃあ新一年生にも嫌われちゃうぞ〜。
折角、最上級生になったんだし、もう少し大らかになろうぜ。」
湊の目には言葉の軽薄さとは真逆の、私のことを気遣う気持ちが現れていた。
私と先輩達との確執を知っているからこそ、私の事を気遣ってくれているのだろう。
だからこそ私は何でもないように答える。
「奏はもう少し先輩としての威厳を持った方がいいんじゃないか?」
「ふっ、そうかもね。
今の2年には舐められちゃってるから、今年こそ威張り散らしてやらなきゃ損だしね。」
奏は普段はおちゃらけているから後輩からもいじられたりする事もあるけど、周りをよく見ていて気遣いの出来る彼女の事を皆が尊敬してあるのを私は知っている。
朝練が終わると、制汗スプレーを吹き掛け制服へと着替える。
着替えと言っても、半袖ハーフパンツの体操服の上に制服を着るだけなので教室で着替えることになる。
視線を感じ横を見ると、
しかし、すぐに目を逸らされてしまう。
萌香は私よりも前に朝練を終えて着替えも済ませていたようで、既に制服を着て席に着いている。
そんな萌香が何故か先程から此方をちらちらと見ている。
私に何か用があるのだろうか。
私は落ち着かない中ささっと着替えを済ませ学校指定のブレザーを見に包み、萌香の方に向き直る。
しかし、萌香は先程のように
先ほどの視線は私の気のせいだったのだろうか。
私は、萌香が昔のように私に接してくれることが嬉しくて、自意識過剰になっているのかもしれない。
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