第7話
「こうやって2人で帰るのも久しぶりだね。」
「そうね、お互い部活もあったから」
因みに、私はソフトテニス部で、萌香はソフトボール部だ。
萌香の家は、私の家と近く学校からも徒歩20分程度の位置だ。
その為、昔は一緒に登下校するのが当たり前だったが、部活の朝練などで時間が合わなくなり、一緒に登下校する習慣はいつの間にかになくなっていた。
だが今日は、始業式で部活がない日だったため、一緒に帰ろうという話になった次第だ。
「部活か……」
「何か言った?」
「ううん、なんでもない。
たまちゃんは部活の調子どうなの?」
「うーん、ぼちぼちかな。地区予選突破できれば良い方。
萌香は凄いよね。エースピッチャーなんでしょ?」
「えっへん、まーね。
私がいるからには今年は全国優勝間違いなしだよ。」
「そうなんだ。頑張ってね、応援してるよ。」
確か去年の総体では県ベスト8だった筈だ。
うちのソフトボール部は、強豪ではないが強い方だと思う。しかし、全国優勝は厳しいだろう。
私は、萌香の言葉が冗談か測りかねてしまう。
「もう、冗談だってば。あんまり期待しないで。
まあ、全国出場は目標にしてるけどね。」
「私からしたら十分凄いよ。」
本当に凄い思う。私は余り部活動に熱心になれなかったから、萌香の瞳の奥に宿る闘志が眩しく感じる。
そんな瞳の輝きに見惚れていると、萌香と目が合った。
萌香は褒められて照れたのか、すぐに目を逸らしてしまった。
「た、たまちゃん雰囲気変わったね。」
ドキッとする。
どういう意味だろう。やはり、昔の様な関係にはなれないというのだろうか。不安が押し寄せてきて耳を塞ぎたくなる。
「すごく、綺麗になった。
も、もちろん昔から可愛かったんだけど、なんか、大人っぽくなったというか」
相変わらず目を逸らしたまま萌香は言う。
予想外の言葉に、胸の鼓動が高鳴る。
まただ、萌香と一緒にいると心拍数が上がり全身が熱くなることがある。
他の人に褒められてもこうはならないだろうと思う。
私は気が動転してしまい思ったことをそのまま口に出す。
「萌香の方が可愛いよ。ぱっちりとした目とか、笑った時の笑窪とか、ポニーテールも似合ってるし。」
萌香は顔を赤くし、こちらに目を向ける。
再び目が合う。
「ありがとう」
萌香は言った後にくちをもごもごさせて何か言いたそうにしていた。
私は萌香が何か言い出すのをただ待った。
何度か目を彷徨わせた後、ようやく決心がついたのか私の目を見つめて小さな声で話し始めた。
「あ、あのね、たまちゃんって恋人とかって出来たことある?」
「ないよ、一度も。」
自分の言葉とは思えないほど冷たい声が出た。
恋人、その言葉を聞いて思い出すのは中学一年生の夏のことだ。
とても苦い記憶。今でも私の周りにこびり付いて離れない耳障りな声。
萌香はあの噂のことを知っているのだろうか。
しかし、萌香は私の変化に気づかない様子で「そっかぁ、よかった。」と口にすると、帰り道を歩き始めてしまう。
「たまちゃんどうしたの?帰ろう。」
「あ、うん。」
私は呆気に取られながらも萌香に追い付き一緒に歩き出す。
それから、萌香は上機嫌に他愛のない話を続けた。
部活の話、友達の話、家族の話、私は萌香と会わなかった二年間の穴の深さを感じることしかできなかった。
でも、萌香のことを萌香の話を聞くことに喜びを感じる自分もいて、油と水のように混ざり合うことのない相反する気持ちが揺れ動く。
嬉しさと悲しさ、悦びと痛み、意味不明な感情に奔流されおかしくなってしまいそうだ。
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