第6話
端的に言えば史乃の様子はおかしかった。
史乃は基本的に内向的で、小説の話など自分の好きな話なら饒舌になるが、人前で手を繋ぐなんてことしないはずだった。
最後に会った三月の終業式から、何が史乃を変えたのだろうか。
変化といえば私もそうだ。
以前の私は、こんなにも萌香のことで感情を揺さぶられることがあっただろうか。
月日を重ね学年が上がる毎に、自分に起きる変化に私の気持ちは置いておかれる。
過去の私と今の私は地続きの筈なのに、まるで他人のように感じることがある。
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始業式が終わると再び教室に戻り、帰りのホームルームまで暫しの待機時間となる。
「たまちゃんってそのっちと仲よかったんだっけ?」
「まあね」
先程も似たような質問をされた気がする。
史乃はこちらに振り向き、中学入ってからずっと同じクラスなんだぁ。と、何故かはにかむように言った。
「ふーん……さっき体育館行く時、手繋いでなかった?」
萌香は、言いながら私の手を取り指を絡ませてきた。
ひんやりと冷たく細い指が絡み付いて、私の指先は少し寒気を感じる。
しかし、体は反対にどくどくと熱を帯び始める。
「うん、繋いでたけど?何か問題でもありましたか。」
「ううん、全然。
ただ、羨ましいなぁとおもって。
たまちゃんの手って暖かいから握っていたくなっちゃうよね。」
「ホッカイロ替わり!?」
私の手はどうやら暖かいらしい。
それなら、まだ寒さの残る廊下で史乃が手を繋ぎたがったのも納得出来る。
「そうなんだよね、私ももう一回手を繋ぎたいな。」
史乃が手を差し出してくる。
早口で捲し立ててくる史乃が何だかおかしくて、しょうがないなと手を握り返す。
史乃の手は萌香とは違いしっとりと暖かかった。
「史乃の手の方が暖かいと思うけどな。」
史乃の手をぎゅっと握りながら言うと、史乃は手を解き、そうなことないよ。と照れたように言って正面に向き直ってしまう。
それから、先生が教室に来てホームルームが始まるまで、萌香とは手を繋いだままお喋りを続けていた。
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