第5話

ホームルームでは自己紹介をした。


まずは先生が自己紹介を行い、それからは五十音順で進められた。しかし、だいたい顔見知りしかいないのでふざけた自己紹介や名前だけの簡潔な自己紹介が多かった。


もちろん、私は後者だ。


「はい、田所茉莉です。これから一年間宜しくお願いします」


そして、萌香の番がやってくる。


「はい、中根萌香です。好きな食べ物はケーキで、中でもチーズケーキです。4月11日が誕生日なのでよろしくお願いします」


周りからはおめでとうなどの野次が飛んでいたが、残念ながら11日は日曜日だ。


そこでハッとする。


遊ぶ約束をした今週末の日曜日こそ、萌香の誕生日なのだ。私は急に不安になる。忘れていたが、誕生日で他の予定があったからと断られてしまうのではないだろうか。


萌香の方を向くと目があった。

そして、ニコッと笑うとまた正面を向いてしまった。


まさか、私にチーズケーキを持ってこいと脅しているのだろうか。それとも、当日に奢らされるのだろうか。何はともあれプレゼントは買うべきだろう。

幸い前日の土曜日が休みなのでその日に買おうと決意をした。


ホームルームが終わると始業式に参加する為に体育館に集合することになる。その際クラスごとに移動するのだが、その並びは基本的に五十音順だ。


私の前には園田史乃がいた。史乃とは読書仲間でよく本の貸し借りや感想会などをしている。

教室でも前の席に座っていたのだが、読書に夢中で挨拶出来ていなかったのだ。


「史乃よろしくね」と声をかけると。

史乃は振り向き「田所さん。同じクラスで良かった」と嬉しそうに言ってくれた。


「田所さんって中根さんと仲良かったんだ」


「うん。小学生の時にね」


「いいなぁ、私も小学生の頃から田所さんと友達になりたかったなぁ」


そうな風に素直に言われると照れる。

「小学生の頃の私は読書なんて全然してなかったけど、いいの?」

と照れ隠しで言ってしまう。


「もちろん、どんな田所さんでも好きだから」


「あ、ありがとう……」

思わず言い淀んでしまう。


「ふふっ、可愛いなぁ」


「ちょっと、からかってるの?」


「ごめんなさい、でも本心だよ」


言いながら手を握られる。


周りの目もあり、恥ずかしさのあまり手を解くと史乃は「ごめんなさい、やり過ぎちゃった」と言い乾いた笑みを浮かべた。


私はなんだか罪悪感に襲われて史乃の手をそっと取り、体育館まで歩いた。


握った手は驚くほど暖かくて、解くのが惜しく感じてしまう。


史乃の表情は俯いていてよく見えなかったが、耳がほんのりピンク色に染まっていた。

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