第2話

まだ少し肌寒い朝の学校の廊下を歩き自分のクラスを見つける。


3年4組と書かれた表札の下のドアを潜ると、小柄でポニーテールの少女が掌を掲げながら此方こちらに近づいてくる。

「たまちゃん。久しぶりー。」


萌香もか、久しぶり」

私は答えながら、掌を合わせる。


「同じクラスになるの小6の時以来だっけ?

 寂しかったよー。」

萌香は小学生の頃と変わらない無邪気な笑顔で尋ねてくる。


「うん、そうだね。私も、寂しかった。」

私は、あの頃のようには素直になれず感情を表すのが苦手になっていた。


素っ気なく思われないか心配していると、顔を綻ばせ「嬉しい」と一言。


私はドギマギしてしまい、繋ぐ言葉を紡げずにいた。


「あのさ……もし良ければ」


「お、萌香いるじゃん。今年もよろしく。」

萌香の言葉を遮るように、茶髪で制服を着崩した少女が話しかけてきた。


萌香は嬉しそうに「みっちー、よろしくね。」と答える。


萌香と白井満しらいみちる琴平栞ことひらしおりは昨年特に仲の良かったグループだ。


「今年も退屈しなそうだ。栞がいれば完璧だったんだけどな。」

満は左手で頭を押さえながら言う。


「みっちーとしおりんは、ご近所さんなんだからいつでも会えるじゃん。」


「それとこれとは話がべつなんですー」


萌香は満と話を始めてしまった。

私は居た堪れなくなり、じゃあと声を掛けて逃げるように背を向けた。


「たまちゃん、まって」


制服の裾を掴まれ咄嗟に萌香に向き直る。


「今週末の日曜日、もし空いていれば遊びに行かない?」


身長差と距離感のせいで上目遣いになりながら聞いてくる。


顔は熱を帯び、急な質問に思考回路は糸が絡まったように纏まらなくなる。なんとか声を絞り出して、

「日曜日、大丈夫。」とだけ言いその場を離れた。


私は、会話というものが苦手だ。いや、苦手になってしまったと言う方が正しい。

子供の頃は、無邪気に思ったことを口にすることが出来た。しかし、中学生になって周囲の目が気になりだすと、口に出す前に相手からどう思われるかを考えてしまい無難な言葉を選んでしまう。

そして、いつからか会話自体を避けるようになってしまった。





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