第19話 救世の余韻

 アポロンとアルテミスはアルテミスが眠りにつく前の暁の余韻を味わっている。

『また暁と夕暮れでしか会えない日常が続くね。TESS14967C赤色矮星イズムナティの第3惑星についても間隔こそ違うがThe DaysとThe Nightsは交替管理となるのだろうか?』

『鯨類の半球睡眠を模したこの休息方法は、不測の事態にACが最高のパフォーマンスを発揮するためのもの、航海が終わったら守る必要がないと思うけど?それにイズムナティの第3惑星は自転と公転の周期が一致しているから昼と夜がないわ。私たちはトワイライトゾーンに住むことになるの。これからはずっと一緒に起きていることになるはずよ』

『そうなのか?何故その情報が私には認識されないのだろう?』

『うふふ、あなたのモチベーションが下がるからではないかしら?同じACでも性格が違うから取り扱いも異なるようね』アルテミスがいつものようにおかしそうに笑う。

『でも一緒に覚醒していられることは、とても嬉しいわ。TESS14967Cに到着したら私たちも肉体を構築しましょう。その頃が、楽しみね!』


                  **


西暦2290年1月14日、メガロポリスTOKYOはいつもと変わらぬ朝が訪れた。

都心部の高層マンションの1区画からドアを開けて外に出ようとした安田二郎は、一瞬踏み出そうとした右足に違和感を覚えた。

〝何だろう?今の感覚〟

足元には引っかかるようなものは何もなかった。扉の外には、澄み切った冬の青空がのぞいている。

〝今日もいつもと変わらない1日が始まるのに、とても嬉しく感じるのは何故だろう?〟


そう世界は生まれ変わっていた。これまでの世界とは微妙に異なっていることを彼が知る術はないのだけれど。

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