第16話 決戦の前に
〝あの夜、内容は覚えていないけれどとても大切なそして素敵な夢を見た。
次の日から何かに突き動かされるようにCSRの企画をたて、予算を取り、関係部署に根回しをしてイベント開催の準備に奔走した。暫く開けたことのなかった机の引き出しに入っていた綺麗な青い石がはめ込まれた小さな機具が、イベント用のSEMの部品とそっくりで試しに取り替えてみたら動いた時には驚いた。何故か装置からその器具を外した記憶がない。
その器具を取り付けてから、シミュレータの画面上にゲノム改変を行う時代が表示され操作する時代を指定できるようになった。またゲノム表示までに数分間、不審な動作をするようになったことを担当の職員から報告を受けたのだが、気分が乗らず調査などの必要な対応をしていない。
シミュレーション環境の設計会議では、電子顕微鏡にも遺伝子操作にも全く知見のない私に溢れるようにアイデアが沸いたことで、その道の専門家達を説き伏せることができ、とてもリアルな環境が構築できた。
今回のテーマこそが、このイベントの本当の目的との確信があり、周囲の反対を押し切って強引に採択したけれど、その理由が思い出せない〟
CSRの主管者である石川は開会式のスピーチの順番を待ちながら漠然とこの三年間に行ってきたことを回想していた。
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由美ちゃんと二人、控室で競技の順番を待っている。モニターに映る他大学の選手は自身に満ち溢れ、手際もとても洗練されているように見える。
俺たちはうまくできるだろうか?緊張感がどんどん高まってきた。脈拍、120くらいになってないか?
「先輩、いよいよ私たちの番ですね。シミュレーションは通過したけれど本番はうまくいくでしょうか?」
「そう信じて頑張るしかない」
「そうそう、全然関係ないですけどAチームの人たちどこにいるか知ってますか?」
「ヨーロッパとか?彼らリッチだし」
この場違いな質問に、本番直前の緊張感で少しイライラしながら応えた。
「はずれ。熱海ですよ」
「……」
「それは、それは…、意外な場所に…ははは……
ありがとう、肩の力が抜けたよ。よし!やるぞ!」
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