第15話 ひどい話でしょ?

 由美ちゃんと大学内の部室で対応を協議している。

「次が最後のシミュレーションですね。どんなゲノム編集をするつもりですか?」

「何故、生息域が広がらないかが判らないのでお手上げだよ。予選終了は3日後の午前0時だからもう時間がない」

「先輩、全然ヒントにならないかもしれないけれど、私の話を聞いてください。」

「私、中学時代はすごく太っていて根暗で友達が少なかったんです。お昼時は、同じような雰囲気の友達二人と教室の隅や校舎の屋上で隠れるようにお弁当を食べていました」

 どうでもいいやと思いながら息抜きにその話に耳を傾けた。

「中学2年の秋に、ある出来事があって一念発起してダイエットしました」

「何でダイエットを始めたの?」

「…それは…秘密です」

「3か月で今と同じような体型になれたけど、友達は増えなかった。相変わらず三人で隠れるようにお弁当を食べていたから…

ある日、家の冷蔵庫が壊れたからと嘘をついて、そのグループから抜け出して食堂で昼食をとるようにしたの。すぐにクラスの目立つ子達が声をかけてくれたわ。〝きれいになったあなたがずっと気になっていたの〟って、それからは交友関係が一変して新しい友人がどんどん増えていったの。気が付いたら昔の友達二人とはほとんど話さなくなっていた…

ひどい話でしょ?」

「…」

他愛のない話のなかに閃くものがあった。

「何か言ってください‼」


「ひどい話だけど…」


「やっぱりひどい話ですよね」

由美ちゃんが話さなければよかったという表情でため息をついた。

「でもとても参考になった。タウム古細菌は性質が変わったのに古い環境から抜け出せない何らかの制約があったらしい。生息域が広がらなかったことで隕石衝突場所に近いという不利益をまともに被ってしまったということじゃないだろうか」

「私の言いたかったのは多分そのようなことです」

「熱水噴出孔で生まれた古細菌たちがそこに縛られる制約は……硫黄かな?それとも他の重金属?

直ぐに構成物質の組成を調べてみよう。メチオニンとシステインの割合が大きいとか、硫黄などの熱水噴出孔にふんだんに存在する物質に代謝サイクルが強く依存しているとか、何か制約がありそうだ」

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