第13話 それぞれの追跡

 なんとか2回目のシミュレーションに向けてのゲノム編集の操作が終わった。

シミュレーション用のパラメータの最終確認を二人して行う。

「準備ができたようだ」

「2回目のシミュレーションボタンを押しますよ?」

「どうぞ」

 画面に赤いアラートサインが表示され、警告音が鳴り響いた。

「……また全滅か!」

「全然、生息域が広がってませんね。こんなに小惑星の落下地点の近く張り付いていたら、生き残れませんよ。」

「代謝速度は上がっているのに、何で拡散しないのだろう」

「全然、関係ないことですけど…」

「なに?」

「Bチームの人たち、ハワイにいるらしいですよ」

「………」


                  **


『アルゴ2の量子メモリー上のスリーパーを全て調べたけれど、2020年頃に生存していた人物はいなかった。スリーパーの募集が2080年開始だから当然なのだけれど……

 共有無意識タイムリープは、対象者の精神波長と生活圏、時代を正確に捉えなければ接続できない。転送物質にメッセージを付けると確かな痕跡が残り、パラドックス励起の危険があるし…どうすればよいかしら』

 アルテミスの嘆息を聞きながら、アポロンは小さな記憶上の違和感を口にした。

『今回の覚醒直前に見ていた高山にロープウエイで登る夫婦の夢、翌年にはロープウエイを改装すると言っていた。該当のロープウエイの改装記録は2020年の1回だけだ、彼らはこの時代に生存していたはずだ!』

アポロンのつぶやきにアルテミスが反応する。

『BRAINSの管理用情報を検索してみましょう

見つけた!ビンゴ!

2022年に、量子メモリー用の人格情報の試験採取を、当時の日本の文科省の官僚が受けている。人格情報のみの試験採取で特殊iPS細胞も作成していないからスリーパー登録されていなかったの。この人に接触することが正しい方法かも知れない』


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