第12話 Dream
アルテミスが断片的な情報パーティクルを周囲に振りまきながら深く思考している。
『2018年から2020年が重ね合わせと時間停止から逃れているのはなぜかしら?』
『東京オリンピックのせいだろうか?』
『アポロン、まじめに考えてちょうだい。私はこれだと思う』
アルテミスからの情報が意識に流れ込む。
〝TESS トランジット系外惑星探索衛星
2018年打ち上げ成功、2020年の任務完了までに全天を走査して2万個近い太陽系外惑星を発見、うち約1800個はハビタブルゾーンに存在し、水が液体で存在できるもの〟
『つまり、この船の目的地TESS14967Cを発見した宇宙望遠鏡なの。この船が重ね合わせに巻き込まれずに存在していることTESS14967Cを目指して航行していること自体が、TESSが全天を走査した地球のこの時代に対して、もう一方の世界よりもずっと強い可能性として存在し、この時代に重ね合わせが及ぶことを抑制する強い拘束力を持っているように思うの』
『そう願いたいね。今、この時代に世界の重ね合わせが及んだらお手上げだ』
『アルゴ2からこの時代の地球にタキオン発振装置を送ること、そこから過去を改変する操作をすることは間違っていないと思う。だけど、誰に何をしてもらうつもりなの?装置と一緒に手紙でも出すつもり?』
『それ以外に、よい方法があるのか?』
『この船を作った人たちが性質の異なる2つのACを搭載して交替で船のコントロールを任せた意図が判る気がする。
The Daysの正面からの問題解決力は素晴らしいし、大抵の問題はそれでうまくいく。でも物事には裏の道もあるの。科学的に証明されていない不確かな方法だけれど、時と場合によっては奇跡を起こせる道』
『時空を超えて人を選び、操作する方法があるのか?』
『観測で結果が変わる光子ダブルスリット実験のような現象なのだけれど…予知夢をあなたはどう認識しているのかしら?』
『既視感と同様の記憶の錯覚と考える。疑似科学の領域の事柄で評価に値しないと思うが?』
『ほとんどの事例が単なる偶然や錯覚でその通りなのだけれど、説明できない事例も存在するの。
そもそも夢をみる理由や効用は十分に解明されていない。海馬に蓄えられた覚醒時の短期記憶を整理し、長期記憶として大脳皮質に転写するためと言われているけれど、夢の中で未知の場所、出来事をとてもリアルに体験することもあるわ』
『この間、君が笑った他人の意識が混濁するという事象じゃないのか?
無意識の深層部には個の意識を越えた共有無意識とよぶべき領域が存在するという説もあるし』
『未来の事象を予知したと解釈できる事例もあるけれど、実証実験を行うと再現しないの。再現しない理由としては、タイムパラドックスを引き起こす可能性から曖昧な状況でしか発生しないのではないかと推測されているの。意図的に曖昧な条件を設定することで、過去に情報を送ることに関してグレーゾーン的な効果を上げている方法があるわ。〝共有無意識タイムリープ〟と呼ばれている』
アルテミスをからの情報が流入する。確かに完全に否定できない曖昧さの残る事例だった。
『予知夢に象徴される過去に意識と情報を送ることの可能性は理解した』
『必要な物質を送るのと同時に、正しい人に正しい情報を送り、正しい行動を起こさせるの。その為の準備を始めるわ』
『了解。うまくいくといいけれど…』
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