第9話 トレードオフ

 アポロンは悩んでいた。

タキオンの超光速性を利用して少量の物質を過去や遠方に送ること、過去や遠方の物質に分子レベルの改変を行うことは可能だ。その機能で異変の発生時点の直接の調査と必要な改変を行いたいところだが、距離と時間を積算した値に上限が存在するのだ。

 時間を遡行する限界は39億年、空間を跳躍する限界は36光年、時間と空間はトレードオフとなっている為、12光年地球から離れたアルゴ2からの時間遡行の限界は26億年となる。今回のトラブルの発生原因となる32億年前には足りない。先行するアルゴ1は地球から18光年離れている為、更に条件が厳しい。

 尚、タキオンには時間軸を遡行する場合は、対象として定められた物質が存在する空間の世界線に沿う性質がある為、宇宙の膨張や銀河内の恒星系の公転、惑星の公転、自転などの移動の影響は補正される。

 検討の末に航行制御用の下位AC、PP2018の提案が採択された。

『正副のタキオン発振装置のうち一基をもう一基の装置を使ってまず過去の地球で世界の重ね合わせが発生していない時代に送る。送ったタキオン発振装置を使用してその時代からタキオンビームを垂直に過去へ照射することで必要な改変を実行し、時間と距離の積数値による制約を回避する』

 いいアイデアだとアポロンは思う。但し、地球のその時代から誰がタキオン発振装置を操作するのか?

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