第7話 破滅の源

 ゲートウエイ4より異変発生から沈黙までの7時間に送られてきた大量の情報の解析が終了した。5000万年刻みに異変発生時期を探査した結果であり、アルゴ1とアルゴ2では到達できない時代に関する貴重な情報だ。

 異変は31億5000万年前から32億年前までの期間に発生している。それ以前の時代には生物相に差異はないことを観測データが証明している。

 アルゴ2が保有している地質学ライブラリーと突合した結果、世界の重ね合わせの発生時期と原因がほぼ特定できた。38億年前の後期重爆撃期終了後、小惑星の地球への衝突はほぼ終息していたのだが31億8000年前に一度だけ小惑星が衝突している。その衝突の際の小惑星の侵入角度、衝突場所に部妙なずれがある世界がゆらぎ(確定していない世界)として発生したらしい。本来の歴史では生存していたはずの後の真核細胞生物とアスガルド古細菌群の共通先祖となる古細菌の門がその世界では死滅しているのだ。

 何故、2290年に31億8000万年前に遡る世界の重ね合わせが発生したかはアルゴ2からは調査する術がない。終末を望む狂信的なカルト集団やテロ組織は存在するが、タキオン発振装置の使用による過去の改変は、20世紀の核兵器よりも数段厳格な管理が適用されており、彼らの自由にできるものではない。研究機関などによるタキオン探査プローブの誤動作の可能性があるが、直近の記録には該当の時代の改変に結びつく研究プロジェクトなどは報告されていない。

 アルゴ2の保有する装備は限られている。船体の半分は反物質燃料の貯蔵庫、1/3は目的地到着後にテラフォーミングと文明再構築に使用される各種重機類及びスリーパーの肉体を作成するための人工子宮や発育調整槽などの医療装置、残りの半分は植民者〝スリーパー〟20万人分の量子メモリー及び特殊iPS細胞、最後の残った領域をACが稼働する一対の超量子コンピュータBRAINSが占めている。

 装備の中で世界の重ね合わせの解消に効果を持つものは、一対のタキオン発振装置とアンシブル通信機だけのようだ。


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