第6話 smile

「タウム古細菌に耐熱性を持たせたらどうですか?」

由美ちゃんが初めてアイデアを出してきた。

「岩石蒸気は数千度に達するから、生半可な耐熱性では焼け石に水だと思う。そもそもタウム古細菌は絶滅していないし…他の生物も同様だ。このイベントは現実を反映していないのか?」

「どうでもいいですけどね。そんなこと」

「…なんだか元気がないね」

「別に、何でもないですよ」

「全然、笑わないし。おかしいよ。夏休みは旅行の予定があると言っていたのに、ここにいるし」

 由美ちゃんは何か話そうとして口をつぐんだ。

「……」

「何かあったの?」

「……」

 なかなか言葉にならないようだ。

「先輩…」

「私の笑い方って下品ですか?」

「何で?… 少し豪快だけど、別に下品じゃないし… 誰から言われたの?そんなこと」

「……」

「もしかして、彼氏?」

「お前が思い切り笑った顔、下品だって! 恥ずかしいから俺の友達の前で絶対に笑うなって!」

いきなり大粒の涙が由美ちゃんの眼からポンポンと飛び出してきた。泣き方の方が豪快かも?


しばらく大泣きする由美ちゃんの背中をさすってあげてから声を掛ける。

「そいつ、判ってないよ! 俺だったら、自分の彼女が心の底から笑っている姿を観るのは嬉しいと思う。一緒に思い切り笑いたいと思う。そんな奴のいうこと真に受けるなよ!」


由美ちゃんの泣き方が穏やかになってきた。


暫くしてぽつりとつぶやいた。

「先輩、ありがとう。少し元気が出ました。

 変人かと思っていたけれど… 結構まともですね。

先輩が理系オタクでなかったら、考えちゃうところです」


「何それ!ひどくない?」

「あははは」

やれやれ、なんとかまた笑ってくれたか。

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