第9話

カレンと一緒に本屋で赤本を買った一週間後、カレンからやっぱり分からないとラインで連絡が来た。

僕はカレンと一緒に本屋に行った。

そして、小学校の国語と、中学校の国語、英語の問題集と参考書を2冊ずつ買った。

「おそろいだね」

カレンの何気ない言葉に僕は心臓がドキリ、とした。


「じゃあ、二週間で小学校の問題集と参考書は終わらせよう。あとは、この本を呼んでおいて」

「分かった」

カレンは問題集と参考書、僕の選んだ本を受け取って笑顔で頷いた。


その後カレンから連絡が無いまま、一ヶ月が経った。


僕から連絡しようか思案していると、カレンからスマホに電話がかかってきた。

「もしもし、カレンですけど、一樹君ですか?」

「はい、そうです。どうしたの?」

電話越しにカレンのため息が聞こえる。


「あの、約束やぶっちゃってごめんなさい。やっと終わりました」

「そう、別に謝らなくて良いけど。カレンが困らないなら」

「怒ってる?」

「怒ってないよ」

「良かった」

僕はカレンに渡したのと同じ問題集を開いた。


「それで、どのくらい正解出来たの?」

「えっと、小学生のは大体出来ました」

カレンは嬉しそうに言った。

「それじゃ、間違えた問題を今度教えるよ」

「ありがとう」


僕はカレンが小学生の問題に一ヶ月かかったことを不安に思った。

「本は読んだ?」

「はい、感動しました。本って意外に面白いんですね」

「実はあれ、中学生の課題図書なんだ。これからもいろいろな本を読んでもらうよ」

「分かりました」

僕はちょっと心配になって、カレンに聞いた。


「ちゃんと寝てる?」

「はい。寝てます。一樹君こそ寝てるの?」

「うん。一日8時間は寝るようにしてるよ」

「だからか。よるラインしても返事は朝だよね」

「うん」

僕は少し責められたような気がした。


「一樹? ちゃんと勉強してるの?」

下から声が聞こえてくる。

「あ、母がくるから切るね」

「うん、いつもありがとうね」

カレンの電話を慌てて切ったタイミングでドアがノックされた。


「はい」

「一樹、入るわよ」

母親が部屋に入ってきた。

「一樹、最近外出が多いけど、何をしてるの?」


「友人に勉強を教えてるんだ」

僕はつい、正直に答えてしまった。

「どこの高校の子? それとも同じ学校の子?」

母親は探るような視線を僕に向けた。

「……同じ学校の上田だよ」

「そう、上田君なら心配ないわね」

母親はそう言って微笑むと部屋を出て行った。


「はあ」

僕はため息をついた。

Fランクの女子高生に勉強を教えてるなんて言ったら、ウチの母親なら予備校以外の外出は禁止と言いかねない。


僕は上田に電話で連絡した。

「もしもし、上田? 今大丈夫?」

「なんだよ、一樹。電話なんて珍しいな」

「実はカレンに勉強教えてること、親には内緒にしてるんだ」

電話ごしに上田の笑い声が聞こえた。


「さては、俺にアリバイ作り手伝えって事?」

「同じ写真部のよしみで頼むよ」

「わかった。ただし、条件がある」

「なんだよ」

僕はドキドキしながら上田の条件を聞いた。


「今度カレンちゃんモデルに写真撮ることがあれば俺も呼ぶこと」

「……了解」

カレンがなんて言うかはわからないけど、背に腹は代えられなかった。

「でもさ、一樹。お前、学校とか予備校とか、追いついてるか?」

「授業を集中して聞いていれば、分からないことはないだろ?」

「そりゃそうだ。遅れはしないけど、予習してないと自分の進路が危なくなるぜ?」

上田の言葉に僕はヒヤリとした。


「まあ、がんばるよ」

「そうだな」

「それじゃ、また明日学校で」

「ああ、またな」

通話を終了した。

僕は上田に借りができてしまった。

「仕方ないか」


僕はため息をついた後、カレンとお揃いの問題集を机の引き出しにしまい、T大の赤本を出して解き始めた。

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