第8話
ミートソースを頬張るカレンは可愛かった。
「ところでカレンは美大って、どこ受けるの?」
「前に見せた赤本のとこじゃなくて、本当はT美大のグラフィックデザイン科」
「そうなんだ」
一樹はT美大の受験情報をスマホで調べた。
「あれ? 受験科目は国語と外国語のみじゃない? 後は小論文と実技だね」
一樹がそう言うと、カレンは驚いた。
「あ、そうだっけ?」
「過去問とか解いてないの?」
一樹の言葉にカレンは俯いた。
「私、予備校の実技と小論文で手一杯で、そこまで気が回らなかった」
「そうなの? 予備校で言われなかったの?」
「あんまりちゃんと聞いてなかった」
カレンは気まずそうに、ミートソースをフォークでかき混ぜている。
一樹とカレンはミートソースを食べ終えるとドリンクバーから、また飲み物を持ってきた。
「カレンは国語得意なの?」
「うーん、あんまり本とか読まないから、得意じゃないかも」
カレンはそう言って髪を指に絡ませた。
「まずは赤本解いてみた方が良いよ」
一樹がそう言うと、カレンは真剣な顔で頷いた。
「分かった。本屋さんに行く」
カレンは2杯目のメロンソーダを飲み干して、立ち上がった。
「僕も一緒に行こうか? 邪魔かな?」
「ううん、邪魔じゃないよ! 一緒に来てもらえると助かる」
カレンと一樹はファミレスを出ると、駅ビルにある大きめの本屋に向かった。
「T美大は有名だから、ちょっと大きい本屋には置いてあると思うけど」
「そう?」
「うん」
カレンと一緒に赤本の売り場に行く。
端から探していくと、わりあい簡単にT美大の赤本が見つかった。
「ほら、やっぱり国語と外国語だけだよ」
「本当だ。私、算数の勉強して損しちゃった」
カレンはため息をついている。
一樹はそれを見て言った。
「算数とか、無駄になるわけじゃないから今から切り替えていこうよ」
「そうだね」
カレンは笑って、赤本を手にした。
「うわ、4000円もするの? 高いね」
「必要経費だよ」
一樹はそう言って、カレンの手から赤本を取ってレジに並んだ。
「え? え?」
カレンは戸惑って一樹の後を追いかけた。
「はい、どうぞ」
一樹は会計を終えて、袋に入れられた赤本をカレンに渡した。
「ええ!? いいの!」
「今日のモデルのお礼だよ」
「だって、高すぎるよ。半分払う」
カレンはそう言って、財布を出すと二千円を一樹に渡した。
「いいよ」
「良くない」
一樹はやりとりが面倒になって、大人しく二千円を受け取った。
「これからも、勉強教えてくれる?」
カレンは遠慮がちに聞いた。
「うん、僕で良ければ」
一樹はそう言って頷いた。
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